サクソン人

サクソン人：北ドイツ低地からブリテン島へ、そしてフランク王国との激突

サクソン人（ザクセン人）は、北ドイツ低地を拠点としたゲルマン系の部族です。現在のドイツのニーダーザクセン地方の基礎を築き、イングランド人の民族形成にも大きな役割を果たしたことで知られています。しかし、彼らの歴史は、他のゲルマン部族とは異なる独自性を示しています。

部族国家としての成立と特徴

サクソン人は、他のゲルマン部族のように古くから記録に残っているわけではありません。紀元前1世紀のカエサル『ガリア戦記』や1世紀のタキトゥス『ゲルマニア』にはその名は登場しません。2世紀半ばに初めて記録に現れ、その後、周辺の小部族を吸収しながら勢力を拡大していきました。4～5世紀には、アングル人やジュート人と共にブリテン島へ渡り、アングロサクソン人の形成に貢献します。

他のゲルマン部族と同様に、サクソン人も部族形成期に共通の文化要素を持っていました。特徴的な髪型（前頭部を高く剃り上げる）や、部族名と同根の片刃直刀「サクス」は、部族に帰属する指標として機能していたと考えられます。

サクソン人の居住地は当初、ホルシュタイン地方南西部を中心としていましたが、成長した勢力はエルベ川からエムス川にかけての北ドイツ一帯へと広がっていき、フランク王国の東側に勢力を築きました。しかし、サクソン人はフランク人やブリテン島に移住した同族のように統一された王国を形成せず、ノルトロイテ、エンゲルン、オストファーレン、ヴェストファーレンの4つの支族からなる連合体として存在しました。6世紀後半以降はフランク王国との抗争が激化し、政治的統合が進んでいきます。ヴェーザー川中流のマルクローで部族全体に関わる集会が開かれるようになり、部族公も出現しました。

宗教面では、フランク人やゴート人と異なり、フランク王国に征服されるまでキリスト教を受け入れず、伝統的な神々の祭祀を継続しました。社会構造は貴族、自由民、解放奴隷の三身分制でしたが、貴族は他の身分との通婚を禁じられるなど、独特の封建制を形成していました。

起源とフランク王国との関係

フランク人がトロイア起源説を信奉していたのに対し、サクソン人はジュート人と同じくスキタイ人を祖先と考えていたと伝えられています。

8世紀、カロリング朝によるフランク王国が統一されると、カール大帝は772年から802年にかけてザクセン征服戦争を開始します。この戦争は、大量殺戮や強制移住を伴う激しいものでしたが、フランク王国は最終的にサクソン人を征服し、キリスト教の受容を強要しました。しかし、サクソン人の社会組織自体は維持され、有力者はグラーフ（Graf）としてフランク王国の行政に組み込まれました。

サクソン人の遺産

サクソン人は、ブリテン島への移住を通じてアングロサクソン文化の基礎を築き、また北ドイツ地方の歴史と文化に大きな影響を与えました。フランク王国との激戦は、ヨーロッパの歴史における重要な出来事の一つであり、その影響は現代まで及んでいます。彼らの社会構造や宗教観、そしてフランク王国との関係は、中世ヨーロッパ社会を理解する上で重要な要素となっています。サクソン人の歴史を研究することは、ヨーロッパの歴史をより深く理解することに繋がります。

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