セドリック・クラピッシュ

セドリック・クラピッシュ

概要

セドリック・クラピッシュ（Cédric Klapisch）は、1961年9月4日にフランスで生まれた、国際的に知られる映画監督であり脚本家です。人間の日常や人間関係を温かく、時にユーモラスに描き出す手腕に定評があり、特に若者たちの群像劇で広く親しまれています。また、同じ俳優を繰り返し起用することでも知られ、その作品群には独特の連続性と深みが生まれています。私生活では、同じく映画監督であるローラ・ドワイヨンを妻としています。

経歴

イル＝ド＝フランス地域圏のヌイイ＝シュル＝セーヌに生まれたクラピッシュは、若くして映画の世界を志します。国内の高等映画学校の受験には一度失敗したものの、彼は諦めず、渡米してニューヨーク大学で映画制作に関する専門的な学びを深めました。このニューヨークでの経験は、後の彼の作品に大きな影響を与えたと言われています。

1985年にフランスへ帰国したクラピッシュは、映画業界でのキャリアをスタートさせます。著名なレオス・カラックス監督の作品『汚れた血』の照明部スタッフを務めるなど、現場経験を積みながら、自身の短編映画の制作にも精力的に取り組みました。

彼の長編監督デビューは、1992年の『百貨店大百科』です。この作品は、デビュー作でありながらフランス国内で高く評価され、権威あるセザール賞にもノミネートされ、クラピッシュはその才能に注目を集めることとなりました。その後も精力的に作品を発表し続け、1996年に監督した『猫が行方不明』では、ベルリン国際映画祭の映画批評家協会賞を受賞し、国際的な認知度を高めました。この作品は、パリの下町を舞台に、失踪した猫を探す女性とその周囲の人々との交流を描き、多くの観客の共感を呼びました。

作風と特徴

セドリック・クラピッシュの作品には、いくつかの明確な特徴が見られます。

まず、彼は人間の心の機微や、登場人物間の関係性の変化を丁寧に描くことを得意としています。特に、『スパニッシュ・アパートメント』とその続編である『ロシアン・ドールズ』、『ニューヨークの巴里夫』といったシリーズに代表されるように、異なる文化背景を持つ若者たちが共同生活を送る中で織りなす人間ドラマは、彼のライフワークとも言えるテーマです。

また、監督自身の遊び心も彼の作品の魅力の一つです。クラピッシュは、自身の監督作品のほぼすべてに、ワンカット程度の短いカメオ出演をするのが通例となっています。これは、ヒッチコックのような映画監督の伝統的な遊びであると同時に、作品に対する彼の個人的な愛着の表れとも言えるでしょう。

さらに、特定の俳優を繰り返し起用することも彼の作風として広く知られています。ロマン・デュリスは彼の多くの作品で主演や重要な役どころを務めており、クラピッシュ作品には欠かせない存在となっています。しかし、中でも特筆すべきは、俳優ジヌディーヌ・スアレムの存在です。スアレムは、クラピッシュがこれまでに監督したすべての作品に、何らかの形で顔を見せているという驚異的な記録を持っています。これは、単なるキャスティングの傾向を超え、監督と俳優の間の深い信頼関係や、クラピッシュが自身の作品世界に連続性を持たせようとする意図を示唆しているのかもしれません。

彼の作品は、コメディタッチでありながらも、人生の節目における不安や葛藤、成長といった普遍的なテーマを描き出し、多くの観客に共感と感動を与えています。多文化が交錯する現代社会における若者のアイデンティティの探求や、家族や友情といった人間的な絆の重要性など、常に時代の空気を取り込みながら、独自の視点で物語を紡ぎ出しています。

主な監督作品

以下に、セドリック・クラピッシュの主な監督作品を年代順にリストアップします。

Ce qui me meut (1989／短編)
百貨店大百科 Riens du tout (1992) - 長編デビュー作
3000 scénarios contre un virus (1993／オムニバス) - オムニバス中の2篇を担当
Poisson rouge
La Chambre
青春シンドローム Le Péril jeune (1994)
猫が行方不明 Chacun cherche son chat (1996) - ベルリン国際映画祭映画批評家協会賞受賞
家族の気分 Un air de famille (1996)
パリの確率 Peut-être (1999)
スパニッシュ・アパートメント L'Auberge espagnole (2002) - 『スパニッシュ・アパートメント』シリーズ第1作
スナッチ アウェイ Ni pour, ni contre (bien au contraire) (2003)
ロシアン・ドールズ Les Poupées russes (2005) - 『スパニッシュ・アパートメント』シリーズ第2作
PARIS Paris (2008)
オーレリ・デュポン　輝ける一瞬に Aurelie Dupont danse l'espace d'un instant (2010／TV) - バレエダンサー、オーレリ・デュポンに密着したドキュメンタリー
フランス、幸せのメソッド Ma part du gâteau (2008)
ニューヨークの巴里夫 Casse-tête chinois (2013) - 『スパニッシュ・アパートメント』シリーズ第3作
パリ・オペラ座　オーレリ・デュポン引退公演「マノン」 L'histoire de Manon (2015) - バレエ公演の記録
おかえり、ブルゴーニュへ Ce qui nous lie (2017)
パリのどこかで、あなたと Deux Moi／Someone, Somewhere (2019)
ダンサー イン Paris En corps／Rise （2022） - バレエを題材にした劇映画

セドリック・クラピッシュは、人間の機微を捉える温かい視点と、独自のユーモアセンスで、フランス国内外の多くの映画ファンを魅了し続けています。彼の今後の作品にも期待が寄せられています。

（参照情報：公式ウェブサイト、allcinema, KINENOTE, IMDbなど）

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