セバスティアン・ピニェラ

セバスティアン・ピニェラ：チリの大富豪政治家から大統領へ、そして悲劇的な最期

ミゲル・フアン・セバスティアン・ピニェラ・エチェニケ。チリ共和国を二度にわたって率いた人物であり、その生涯は、成功と挫折、富と貧困、支持と批判といった対照的な要素が複雑に絡み合う物語として記されるだろう。1949年生まれの彼は、幼少期をベルギーとアメリカ合衆国で過ごし、その後チリ・カトリック大学で商業工学を学び、ハーバード大学では経済学を深めた。

華麗なるキャリアと政界への転身

ピニェラは、クレジットカード会社、メディア、航空会社など多様な企業に投資を行い、チリ有数の大富豪として知られるようになった。米経済誌『フォーブス』の世界長者番付に名を連ねるほどであり、その資産はサッカークラブの所有にも及ぶ。彼の経済界での成功は、政治家としてのキャリアの基盤となる。

1990年に独立系政党から上院議員に当選。その後、国民革新党へ入党し、党首にまで上り詰めた。2005年には大統領選に挑戦するも落選するものの、その経験が彼を将来の大統領に導く礎となる。

大統領としての二期と激動の時代

2010年、ピニェラはチリ大統領に当選。1990年の民政移管後、初めてピノチェト政権の流れをくむ大統領として、新たな時代の幕開けを告げた。就任式当日には大地震が発生するなど、波乱含みのスタートとなった。

大統領1期目においては、コピアポ鉱山落盤事故への対応が高く評価された一方、水力発電所の建設計画や学生抗議行動への対応など、支持率の変動も経験する。しかしながら、2期目への再挑戦となった2017年の大統領選挙では見事勝利を収めた。

しかし、2期目のピニェラ政権は、社会的な激動の時代に直面することとなる。新自由主義政策への反発、格差拡大への不満、そして2019年に勃発した大規模な抗議デモ。これらにより、ピニェラ政権は厳しい批判に晒され、支持率は低迷した。サンティアゴ地下鉄の値上げをきっかけに始まった抗議活動は、暴動へと発展し、非常事態宣言の発出にまで至った。チリ軍の市街地への配備は、ピノチェト軍事独裁政権時代以来のことだった。

これらの抗議活動の中で、ピニェラは強硬な姿勢をとり、国民との溝を深めてしまった。パンドラ文書によって租税回避に関与した疑惑も浮上し、弾劾手続きも開始されたが、否決された。

親米・反共主義と外交政策

ピニェラ政権は、親米・反共主義を明確に打ち出した。ベネズエラなどの反米左派国家に主導される南米諸国連合に対抗し、新たな地域連合の設立を提唱した。一方で、中国とは自由貿易協定を強化し、経済関係を重視。一帯一路にも支持を表明した。日本とは、防災対策や東日本大震災への対応で協調関係を築き、日本の国連安保理常任理事国入りも支持した。

悲劇的な最期

2024年2月6日、ピニェラはヘリコプター事故で急死。74歳だった。自身で操縦していたヘリコプターは離陸直後に墜落し、彼は溺死したと報じられた。その突然の死は、チリ国民に大きな衝撃を与えた。

まとめ

セバスティアン・ピニェラは、大富豪から大統領へと上り詰めた稀有な人物だった。彼の政治家としてのキャリアは、成功と失敗、支持と批判の両方を経験した激動の時代を反映している。ピノチェト政権の流れを汲む大統領として、また親米・反共主義を掲げる政治家として、彼の存在はチリの歴史に深く刻まれた。そして、ヘリコプター事故による悲劇的な死は、その生涯に更なる複雑さとドラマを付加した。彼の功績と失敗を多角的に評価することは、チリ近現代史を理解するために不可欠となるだろう。

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