セルゲイ・ルビンシュテイン

セルゲイ・レオニドヴィッチ・ルビンシュテイン

ソビエト連邦を代表する哲学者であり、特に心理学の分野で後世に大きな影響を与えたセルゲイ・レオニドヴィッチ・ルビンシュテイン（Сергей Леонидович Рубинште́йн）は、1889年6月18日に生まれ、1960年1月11日にその生涯を終えました。

生涯

ルビンシュテインは、1889年にロシア帝国の港湾都市オデッサで誕生しました。彼は高等教育をドイツで受け、まずフライブルク大学で学んだ後、マールブルク大学へと移りました。マールブルク大学では、当時隆盛を誇っていたマールブルク学派（新カント派）の哲学に触れ、ここで哲学の博士号を取得しました。この時期の経験が、後の彼の学問的基盤に大きな影響を与えたと考えられています。

ロシア革命後の1919年、彼は故国に戻り、ノヴォロシア大学で哲学および心理学の助教授として教鞭を執り始めました。その後、ソビエト連邦における教育・研究機関で要職を歴任します。1922年には人民教育大学の心理学講座主任に就任し、1932年にはゲルツェン記念レニングラード教育大学の心理学講座主任を務めました。彼のキャリアの頂点とも言える時期は、1942年からで、モスクワ大学の心理学講座主任と心理学研究所長を兼任しました。このモスクワでの活動期に、彼は自身の主要な研究成果をまとめることになります。1960年、彼はモスクワにて死去しました。

研究内容と思想

ルビンシュテインの研究は、初期のマールブルク学派哲学、特に認識論への関心から出発しましたが、やがてマルクス・エンゲルス主義の思想を基盤とした心理学の探求へとその方向を転じました。彼の学説の核心をなすのは、「意識と活動との統一原理」です。この原理は、人間の精神活動や意識を、単に内的な過程としてではなく、人間が外界と相互作用し、現実世界に対して行う具体的な活動や実践との不可分な結びつきの中で理解しようとするものです。彼は、この視点から全く新しい心理学の領域を切り拓くことを目指しました。

彼の主著の一つである『一般心理学の基礎』（1940年初版、1946年改訂版）は、この「意識と活動との統一原理」が、当時の心理学で扱われていた様々な分野にいかに適用可能であるかを示す試みでした。この著作の中で、ルビンシュテインは、感覚、知覚、記憶、想像、思考、言語行為といった基礎的な精神機能から、注意、情動、意志、そして人間の行為、活動、さらには人格の構造（志向性、能力、気質、性格）や自己意識、生き方といったより複雑で全体的なテーマに至るまで、幅広い領域をこの統一原理に基づいて考察しました。この著作は、ソビエト心理学史において画期的な業績とされ、多くの研究者に影響を与えました。

主な著作

『K・マルクスの労作における心理学の諸問題』（1934年）
『心理学原理』（1935年）
『一般心理学の基礎』（1940年、1946年）
『存在と意識』（1957年）
『思考とその研究方法について』（1958年）
『心理学の原理と発展の道』（1959年）
『一般心理学の諸問題』（1973年 - 没後出版）

関連項目

ヘルマン・コーエン
* パウル・ナトルプ

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