セルビア社会主義共和国

セルビア社会主義共和国：ユーゴスラビア連邦の一員としての歴史と崩壊への道

セルビア社会主義共和国(Socijalistička Republika Srbija)は、1943年から1990年まで存在したユーゴスラビア社会主義連邦共和国(SRFJ)を構成する共和国の一つでした。ユーゴスラビア最大の面積と人口を誇り、首都ベオグラードは連邦全体の政治・経済の中心地としての役割を担っていました。本稿では、セルビア社会主義共和国の歴史、政治、そしてユーゴスラビア崩壊への関与について詳しく見ていきます。

歴史：セルビア人民共和国から社会主義共和国へ

1945年から1963年まではセルビア人民共和国(Narodna Republika Srbija)として、その後1963年から1990年までセルビア社会主義共和国として存在しました。1974年の憲法改正では、ヴォイヴォディナ社会主義自治州とコソボ社会主義自治州が、他の共和国とほぼ同等の自治権を獲得しました。

セルビア社会主義共和国は、ヨシップ・ブロズ・チトーの死後(1980年)まで、連邦政府に概ね従順な立場を維持していました。しかし、チトーの死後、コソボにおけるセルビア人とアルバニア人の民族主義の高まりが、共産主義者同盟(SKJ)内部に亀裂を生じさせました。

1980年代後半、スロボダン・ミロシェヴィッチ率いるセルビア人民族主義勢力は、セルビアとモンテネグロでの支配権を掌握。コソボとヴォイヴォディナ両自治州の自治権を大幅に制限しました。1989年にはミロシェヴィッチがセルビア社会主義共和国の大統領となり、ユーゴスラビア人民軍(JNA)によるコソボへの介入を主導、セルビアの利益を優先する政策を推し進めました。

このミロシェヴィッチの強硬姿勢は、他の共和国からの反発を招き、SKJにおけるセルビアの優位性をめぐる緊張は高まりました。最終的にSKJは崩壊し、1991年にはユーゴスラビア連邦も解体に向かいました。1990年以降、セルビア社会主義共和国はセルビア共和国(Republika Srbija)と改称され、1992年にはセルビア・モンテネグロ連邦へと移行。2006年のモンテネグロ独立により、セルビアは単独の国家となりました。

行政区分と人口：多様な民族構成

セルビア社会主義共和国は、ヴォイヴォディナ社会主義自治州、コソボ社会主義自治州、そして中央セルビアから構成されていました。人口は多様な民族から成り、1971年と1981年の国勢調査データは、その変化を明らかにしています。

1971年の国勢調査では、セルビア人は全体の約73%を占めましたが、アルバニア人、マジャル人、クロアチア人などの少数民族も大きな割合を占めていました。1981年には、セルビア人の割合が若干減少し、アルバニア人の割合が増加しています。この民族構成比の変化は、後の民族紛争の背景ともなりました。

政治：共産主義者同盟の分裂とミロシェヴィッチの台頭

セルビア社会主義共和国では、ユーゴスラビア共産主義者同盟の下部組織であるセルビア共産主義者同盟が唯一の合法政党でした。しかし、コソボ問題を巡って党内は分裂。穏健派と民族主義派の対立が激化しました。

ミロシェヴィッチは、コソボのセルビア人保護を訴え、アルバニア人への強硬姿勢で支持者を拡大。コソボおよびヴォイヴォディナの自治権縮小、彼に忠実な政治家への人事配置など、権力基盤を強固なものにしていきました。

1990年のSKJ会議では、ミロシェヴィッチはスロベニアの改革案に反対し、SKJの崩壊、そしてユーゴスラビア崩壊へと繋がる大きな役割を果たしました。ミロシェヴィッチの権力掌握と民族主義的政策は、ユーゴスラビアの崩壊において重要な転換点となりました。

結論：多様な要素が複雑に絡み合った歴史

セルビア社会主義共和国の歴史は、ユーゴスラビア連邦の歴史と密接に関連しており、民族問題、政治的対立、そして共産主義体制の終焉といった複雑な要素が絡み合っています。ミロシェヴィッチの台頭と彼の強硬政策は、ユーゴスラビア崩壊における決定的な要因の一つであり、その後のバルカン紛争にも大きな影響を与えました。

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