セレウリド

セレウリドについて

セレウリド（Cereulide）は、セレウス菌（Bacillus cereus）の特定の系統により生成される強力な毒素です。ミトコンドリアに影響を与えるこのサイトトキシンは、主に吐き気や嘔吐を引き起こすことで知られています。セレウリドの特徴的な作用は、イオノフォアとしての性質であり、特にカリウムイオンに対して高い親和性を持つ点です。この毒素に曝露されることで、ミトコンドリア内の膜電位が失われるほか、酸化的リン酸化の脱共役が生じます。

セレウリドの嘔吐誘発作用は、特に5-HT3受容体と結合して活性化されることから、迷走神経を刺激するメカニズムが関連していると考えられています。具体的には、セレウリドが受容体の結合によって求心性迷走神経の刺激が増加し、それが吐き気や嘔吐を引き起こす要因となります。

セレウリドの構造と特性

この毒素は、バリノマイシンに類似したドデカデプシペプチドであり、特異な構造を持っています。セレウリドは、4つのアミノ酸から成るD-Oxy-Leu—D-Ala—L-Oxy-Val—L-Valの繰り返しによって形成される環状ポリペプチドです。このポリペプチドは、セレウス菌が持つ独自の非リボソームペプチド合成経路によって生成されます。加えて、セレウス菌の胞子はセレウリドを生成しない系統と比べて耐熱性が高く、この毒素の活性は高温処理のオートクレーブや加熱でも失われません。

セレウリドの生合成

セレウリドの生合成は、Bacillus cereusに存在する2つのヘテロ二量体タンパク質、すなわちCesAとCesBによって行われます。これらのタンパク質は非リボソームペプチド合成酵素として機能し、各アミノ酸を追加し、修飾し、連結します。

生合成過程における個々のステップは、アデニル化（Aドメイン）、ケトレダクターゼ（KRドメイン）、エピマー化（Eドメイン）、そして縮合（Cドメイン）によって調整されます。これにより、ペプチド鎖が生成され、最終的にはチオエステラーゼ（TEドメイン）が環化を促進し、セレウリドが形成されます。

CesAとCesBはそれぞれ387 kDaおよび305 kDaの大きさを持ち、さらにそれぞれのモジュールから成り立っています。CesAは、基質として選択されたα-ケトイソカプロン酸をAドメインで認識してチオエステル結合を介し、他のアミノ酸を連結していきます。代わりに、CesBは異なる基質を使いながら、それぞれのペプチドを形成していきます。最終的に、環状のデプシペプチドであるセレウリドが生成され、その中にはエステル結合とアミド結合が交互に並ぶ複雑な構造が含まれています。これらの構造が、セレウリドの特異な生物学的機能に寄与しているのです。

まとめ

セレウリドは、セレウス菌によって生成される強力な毒素であり、その生合成や構造が特異な性質を持っています。この毒素は、食中毒を引き起こす原因となることが多く、特に加熱処理をしても活性が失われない特性から、食品衛生上の重要な問題となっています。

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