セレナード (バーンスタイン)

セレナード（レナード・バーンスタイン）

レナード・バーンスタインが1954年に完成させた『セレナード』は、ヴァイオリン独奏と弦楽、ハープ、打楽器のために書かれた演奏会用作品です。その正式名称は『プラトンの「饗宴」によるヴァイオリン独奏、弦楽、ハープと打楽器のためのセレナード』といい、題名が示す通り古代ギリシャの哲学者プラトンの有名な対話篇『饗宴』から霊感を得て作曲されました。この作品は、厳密には協奏曲ではありませんが、ヴァイオリンが重要な役割を担うことから、事実上のヴァイオリン協奏曲として広く認識されています。バーンスタインの多岐にわたる作品群の中でも、特にミュージカル作品以外では最も頻繁に演奏される楽曲の一つとして知られています。

作曲経緯と初演

このセレナードは、著名なクーセヴィツキー財団からの委嘱を受けて作曲されました。初演は作曲と同じ1954年、イタリアの水の都ヴェネツィアで行われました。ヴァイオリン独奏は、20世紀を代表する名ヴァイオリニスト、アイザック・スターンが務め、そしてタクトを執ったのは、作曲者自身であるレナード・バーンスタインでした。

音楽的特徴

全体として約30分を要する本作の音楽は、非常に多様な要素を含んでいます。オーケストラの編成（弦楽器、ハープ、打楽器）が類似しているベーラ・バルトークの『弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽』を思わせるような、ミステリアスで時に鋭利な響きや雰囲気が聴き取れる部分がある一方で、バーンスタイン特有の活気に満ちた躍動的なリズム、都会的で洗練されたジャズを彷彿とさせる要素、そして聴き手を惹きつけるユーモラスな表現も随所に現れます。アカデミックな構成と作曲家らしい個性が巧みに融合した、聴きどころの多い楽曲と言えるでしょう。

楽曲構成

作品は全部で五つの楽章によって構成されています。それぞれの楽章には、『饗宴』に登場し、愛についてそれぞれの見解を述べる哲学者たちの名前が冠されており、対話篇における議論の流れを音楽で表現しようとするバーンスタインの試みがうかがえます。

ファイドロス - パウサニアス
アリストファネス
エリュキシマコス
アガトン
* ソクラテス - アルキビアデス

有名な逸話

この作品の演奏に関しては、ヴァイオリニスト五嶋みどりに関する非常に有名なエピソードが存在します。1986年にアメリカのタングルウッド音楽祭で開催された演奏会でのことです。当時まだ若かった五嶋みどりは、作曲者バーンスタイン自身の指揮のもと、このセレナードを演奏していました。その際、演奏中にヴァイオリンの弦がなんと二度も切れるという、演奏家にとっては非常に困難なアクシデントに連続して見舞われました。しかし、五嶋みどりは全く動じることなく冷静さを保ち、コンサートマスターや副コンサートマスターからヴァイオリンを借りるなどして、見事に演奏を最後まで完遂しました。この出来事は即座に大きな話題となり、「タングルウッドの奇跡」として語り継がれています。これは、彼女の並外れた集中力、精神的な強さ、そして才能を示すものとして、広く世界中で称賛されました。

まとめ

バーンスタインの『セレナード』は、プラトンの哲学的な主題を音楽で深く掘り下げつつ、作曲家ならではの個性的な音楽語法とエネルギーに満ちた表現で彩られた傑作です。彼の非ミュージカル作品群の中でも特に重要な位置を占めるこの作品は、その独自の魅力によって、今日でも多くの演奏家や聴衆に愛され続けています。

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