セントポール組曲

セントポール組曲 作品29-2

グスターヴ・ホルスト作曲の《セントポール組曲》作品29-2は、1912年から1913年にかけて書かれた弦楽合奏のための作品です。当初は『組曲ハ調』と名付けられていましたが、後に現在の題名で広く親しまれるようになりました。

作曲の背景

ホルストは1905年からその生涯を閉じる1934年まで、ロンドンのセント・ポール女学校で音楽教師を務めていました。作曲当時、学校は彼に防音設備を備えた専用の音楽室を提供します。この特別な配慮に対する感謝の気持ちを込めて、ホルストはこの組曲を作曲しました。

オリジナルの編成は弦楽合奏ですが、より多くの生徒たちが演奏に参加できるようにとの意図から、作曲者自身の手により木管楽器が加えられた管弦楽版も存在します。これは、ホルストが教育現場に深く関わっていたこと、そして自身の作品を通じて生徒たちの音楽教育に貢献しようとした姿勢を示しています。

楽曲構成と特徴

この組曲は全4楽章で構成されており、それぞれの楽章が明確な性格を持っています。演奏時間は全体でおよそ12分程度で、各楽章はおおよそ3分、2分、4分、3分となっています。

以下に各楽章の概要を示します。

第1曲 ジッグ (Jig)
速度記号はヴィヴァーチェ（Vivace）。イギリスの伝統的な舞曲であるジッグの軽快なリズムに乗って開始されます。活気に満ちた楽章です。

第2曲 オスティナート (Ostinato)
速度記号はプレスト（Presto）、3/4拍子。特定の音型やリズムが執拗に繰り返される「オスティナート」が用いられた楽章です。速いテンポで進行し、推進力に溢れています。

第3曲 間奏曲 (Intermezzo)
速度記号はアンダンテ・コン・モート（Andante con moto）、3/4拍子。穏やかで表情豊かな楽章です。手稿譜では「舞曲（Dance）」と題されていたこともあり、優雅な旋律が特徴的です。

第4曲 終曲（ダーガソン） (Finale (The Dargason))
速度記号はアレグロ（Allegro）、6/8拍子。この楽章は、ホルストの《吹奏楽のための第2組曲》の終楽章『ダーガソンによる幻想曲』を弦楽合奏用に編曲したものです。古くから伝わるイギリスの民謡「ダーガソン」の旋律が主旋律として用いられており、その対旋律として有名な「グリーンスリーブス」の旋律が現れるのが大きな特徴です。二つの異なる旋律が巧妙に組み合わされ、華やかなフィナーレを飾ります。

《セントポール組曲》は、ホルストの管弦楽作品の中でも特に親しみやすく、教育的な配慮と音楽的な魅力が両立した作品として、広く演奏されています。

もう一度検索