セーシェルウツボカズラ

セーシェルウツボカズラ（Nepenthes pervillei）の詳細解説

セーシェルウツボカズラは、ウツボカズラ科ウツボカズラ属に属する多年生のつる性食虫植物です。セーシェル諸島固有の種であり、東南アジア以外に分布する数少ないウツボカズラのひとつとして知られています。この植物は、ウツボカズラ属の中でも特に原始的な特徴を持つと考えられており、その系統分類学的にも重要な種です。

特徴

セーシェルウツボカズラは、樹木に絡みつきながら成長するつる植物で、樹冠にまで達することがあります。成長初期には葉を密生させ、葉身は卵形から楕円形で、茎を抱き込むように中肋に沿って左右から折れ曲がります。

捕虫袋は、下位のものと上位のもので形状が異なります。下位の捕虫袋は、下部が漏斗状で、中央部が膨らみ、上部が短い円筒形となっています。つまり、下から中央部にかけて膨らみ、そこから上に向かって細い筒状になっているのが特徴です。一方、上位の捕虫袋は、より細長い筒状で、下位の捕虫袋の膨らんだ部分をそのまま伸ばしたような形状をしています。いずれの捕虫袋にも、外面にある2枚の縦翼はほとんど見られず、痕跡程度しか残っていません。袋の口の縁歯は円筒状です。

日本では、4月から5月にかけて開花します。

分布と生育環境

セーシェルウツボカズラは、セーシェル諸島の固有種であり、標高350mから500mの丘陵地に自生しています。

系統と分類

ウツボカズラ属の分布の中心は東南アジアですが、マダガスカルなどインド洋周辺にもいくつかの種が分布しています。セーシェルウツボカズラ、マダガスカルに分布する2種（マダガスカルウツボカズラとN. masoalensis）、スリランカに分布する1種（N. distillatoria）は、形態的な特徴から、ウツボカズラ属の中でも原始的なグループに分類されてきました。

これらの種は、円筒形または漏斗形の上位捕虫袋、単純な構造の縁歯、分枝のない多細胞の毛、円錐花序をなす花、そして多数の蜜腺と消化腺を持つという共通の特徴を持っています。

その中でも、セーシェルウツボカズラは、特に以下のような独特の構造を備えています。

上部の捕虫袋の巻き鬚が巻き付く部分がない
基部のロゼット葉の捕虫袋と、伸び出した枝の捕虫袋の区別が不明瞭
卵形で先端が切れた黒色の種子
倒円錐形の果実が3つの開口部を持つ
雄花が4弁を持つ

これらの特徴から、セーシェルウツボカズラは、ウツボカズラ属の中で特異な位置を占めており、かつては別属(Anurosperma)として扱われることもありました。1936年のHarmsによる分類体系では、セーシェルウツボカズラとマダガスカル産の種をそれぞれ独自の節として、他のすべての種と対比させました。

分子系統学的研究でも、セーシェルウツボカズラがN. distillatoriaと共に、ウツボカズラ属の系統樹の基底で分岐したことが示されており、この2種が単一のクレードを構成することが明らかになっています。

利用

セーシェルウツボカズラは、食虫植物として栽培されることがあります。しかし、その栽培の歴史は浅く、1972年の近藤・近藤の文献では、「わが国で栽培されたことのない種」であり、「栽培方法は不明」と記述されています。2010年の田辺の文献でも、普及していない珍品として紹介されています。

参考文献

近藤勝彦・近藤誠宏『カラー版 食虫植物図鑑』、(2006)、家の光協会
田辺直樹『食虫植物の世界 魅力の全てと栽培完全ガイド』、(2010)、(株)エムピージェー
近藤誠宏・近藤勝彦『食虫植物 入手から栽培まで』、(1972)、文研出版
H. Meiberg & G. Heubl, 2006. Introduction of a Nuclear Marker for Polygenetic Analysis of Nepenthaceae. Plant Biol. 8: p.831-840.
H. meimberg et al. 2001, Morecular Phylogeny of Nepenthae Based on Cladistic Analysis of Plastid trnK Intron Sequence Data. Plant Biol. 3 :p.164-175

もう一度検索