ゼニヤッタ・モンダッタ

『ゼニヤッタ・モンダッタ』（Zenyatta Mondatta）

1980年、イギリスのロックバンド、ポリスが発表した通算3枚目のスタジオ・アルバムです。この作品は、レゲエのリズムとパンクのエネルギー、ニュー・ウェイヴの洗練を融合させたポリス独自のサウンドを確立し、彼らの世界的な人気を決定づける重要なステップとなりました。アルバムタイトルである『ゼニヤッタ・モンダッタ』はメンバーによる造語であり、その具体的な由来については、禅（Zen）やイタリア語の「mondo」（世界）、あるいは国際連合（United Nations）など、様々な説が唱えられていますが、公式な説明はされていません。

制作背景

本作の制作は、当時のポリスが精力的に行っていたツアー活動の合間を縫って行われました。既に次期ツアーのスケジュールが決定していたため、アルバム全体の録音は非常にタイトな期間の中で敢行されました。このような制約された環境下での作業が、アルバム全体のサウンドに良い意味での勢いや緊迫感を与えた側面も指摘されています。

成功と収録曲

このアルバムからは、「高校教師（Don't Stand So Close to Me）」と「ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ（De Do Do Do, De Da Da Da）」という、ポリスの代表曲となる2曲がシングルカットされ、世界中で爆発的なヒットを記録しました。特に「高校教師」は、彼らにグラミー賞をもたらすなど、音楽的な評価と商業的な成功の両立を示すものとなりました。

アルバムにはこれらのヒット曲を含む全11曲（日本国内盤などでは異なる場合あり）が収録されています。収録曲のほとんどはベーシスト兼ボーカリストのスティングが手掛けていますが、ドラマーのスチュワート・コープランドとギタリストのアンディ・サマーズもそれぞれ楽曲を提供しており、バンドメンバーそれぞれの個性が光る作品となっています。

特筆すべき楽曲

高校教師（Don't Stand So Close to Me）
スティングが高校で教育実習生だった頃の体験が基になっているとされる楽曲です。教師と生徒という立場における、社会的な規範と感情の葛藤をテーマにした歌詞は当時大きな話題となりました。特に興味深いのは、1986年にポリスが一時的に再結成した際に、この曲のリミックス版「高校教師'86」が制作されたことです。これは、本来予定されていた新作アルバムの制作が、コープランドの怪我により中止となった代わりに発表されたもので、このバージョンではコープランド自身がドラムマシンを用いてリズムパートを構築しています。

世界は悲しすぎる（Driven to Tears）
スティングが貧困問題や世界の不正に対する自身の憤りを表現した社会派の楽曲です。彼が持つメッセージ性と、ポリスらしいリズミカルでドライな演奏が見事に融合しています。

ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ（De Do Do Do, De Da Da Da）
繰り返されるシンプルなフレーズが印象的な大ヒット曲。歌詞の内容は、言葉によるコミュニケーションの限界や、言葉の持つ意味の曖昧さについて問いかけていると解釈されています。耳に残るメロディと、深いテーマ性が両立した楽曲です。

ビハインド・マイ・キャメル（Behind My Camel）
ギタリストのアンディ・サマーズが作曲したインストゥルメンタル曲です。この曲の制作時には、スティングが参加を強く嫌がり、録音済みのテープを庭に埋めてしまうという有名なエピソードがあります。しかし、アンディ自身がそのテープを掘り出し、無事アルバムに収録されました。結果としてこの曲はグラミー賞のベスト・ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス部門を受賞し、アンディの作曲家としての才能が高く評価されました。スティングがベースを弾かなかったため、この曲のベースパートはアンディ自身が担当しています。

ボムズ・アウェイ（Bombs Away）
ドラマーのスチュワート・コープランドが手掛けた楽曲で、当時のソビエト連邦によるアフガニスタン侵攻をテーマにしているとされています。コープランド特有のリズムアプローチが、楽曲の持つ緊迫した雰囲気を強調しています。

これらの楽曲以外にも、アルバムには「カナリアの悲劇（Canary in a Coalmine）」のようなポップな曲から、「シャドウズ・イン・ザ・レイン（Shadows in the Rain）」のようなダークな雰囲気を持つ曲まで、多様なサウンドが収められており、バンドの音楽的な幅広さを示しています。

参加ミュージシャン

スティング: ボーカル、ベース（特記なき限り）
アンディ・サマーズ: ギター、バッキング・ボーカル、ベース（「ビハインド・マイ・キャメル」のみ）
スチュワート・コープランド: ドラム、バッキング・ボーカル

日本国内盤の特典

2005年に日本国内で再リリースされたリマスター版や紙ジャケット版の一部は、エンハンスドCDという形式で発売されました。これは通常の音楽CDとしての再生に加え、コンピューターにセットすることで「高校教師」のミュージックビデオなどの特典コンテンツを視聴できるものでした（例: UICY-6577）。

アルバム名と競走馬

アルバムタイトルの『ゼニヤッタ・モンダッタ』の由来の一つとして挙げられる可能性のある言葉に「ゼニヤッタ」がありますが、これはポリスのプロデューサーの一人であったジェリー・モスが所有していた競走馬の名前です。興味深いことに、この競走馬の方がアルバムタイトルよりも後に名付けられており、その馬名がアルバムに由来するという関係性になっています。

まとめ

『ゼニヤッタ・モンダッタ』は、ポリスが短期間での制作という困難な状況を乗り越え、バンドの独自のサウンドと普遍的なメッセージを融合させた傑作です。「高校教師」や「ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ」といった時代を象徴するヒット曲を生み出し、ポリスを世界的なスーパーバンドへと押し上げた、彼らのキャリアにおいて非常に重要な位置を占める作品と言えます。個々の楽曲にまつわるドラマティックなエピソードも含め、今なお多くの音楽ファンに愛されています。

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