ソオス

古代スパルタの王権を二分した二つの王朝の一つ、エウリュポン朝において、ソオス（ギリシア語：Σόος、ラテン文字転記：Soos）は、紀元前890年頃まで在位したとされる支配者でした。

彼の血筋は王家の正統を受け継いでおり、先代の王であるプロクレースの子として生まれ、後に王位を継承することになるエウリュポンの父にあたります。ソオスは単に血統を受け継いだだけでなく、王としての具体的な業績をいくつか残しています。その主要なものとしては、スパルタ社会における従属民であり、農業労働に従事していたヘロットたちを奴隷身分に固定したこと、そして軍事行動によって、隣接するアルカディア地方から広範囲にわたる土地を征服し、スパルタの領土を拡大したことが挙げられます。これらの政策は、後のスパルタ社会の経済基盤と軍事力の源泉に深く関わることとなります。

ソオスに関する特に有名な記述は、古代ローマの伝記作家プルタルコスの著作『対比列伝』中の「リュクルゴス伝」に見られます。プルタルコスは、後のスパルタの根本法を制定したとされる伝説的な立法者リュクルゴスの系譜を辿る中で、その祖先にあたるソオスを、特別な尊敬を受けるべき王として言及しています。彼が尊敬された理由は、単なる軍事的成功や支配者としての権威だけでなく、窮地における知略と不屈の精神を示すある逸話に基づいています。

プルタルコスの伝えるところによれば、ソオスとその軍勢はかつて、敵対するクレイトル人によって、非常に険しく、しかも水を得ることが困難な場所へと追い詰められ、完全に包囲されてしまいました。極度の渇きに苦しむ絶望的な状況下で、ソオスは驚くべき策を講じます。彼は敵に対し、もし自分と味方の全員が近くにある泉から水を飲むことを許されるならば、現在占領している土地を明け渡すと提案しました。これは一見、不利な取引のように見えますが、ソオスには別の意図がありました。

一方で、彼は味方の兵士たちに対して、この過酷な状況に耐え、水を飲むことを我慢した者には、スパルタへ帰還した後、王国を与えるという破格の約束をしました。しかし、人間の肉体的な限界は厳しく、激しい渇きに耐えきれず、ソオスを除く全ての兵士が泉の水を飲んでしまいました。約束通り、ソオスは一人だけ渇きに屈しませんでした。彼は皆が水を飲んだ後、最後に泉へと降り立ちましたが、喉を潤すために水を飲むことはしなかったのです。代わりに、敵の視線があるその場で、水を使って体を清めるに留め、一滴も口にすることなくその場を立ち去りました。

この行動により、ソオスは敵との約束、すなわち「全員が水を飲んだら土地を引き渡す」という条件が満たされなかったと主張することができました。結果として、彼は窮地を脱し、かつ占領地を失うことも回避したというのです。プルタルコスは、この逸話こそが、ソオスの単なる軍事的な強さだけでなく、極限状況における冷静な判断力、そして何よりも自己を律する強い精神力を持っていたことを示しており、それが彼をリュクルゴスの祖先の中でも特別な存在として尊敬させる理由であると記しています。

ソオスの生涯と治世に関する情報は限られていますが、ヘロット制度の確立や領土拡大といった政治的・軍事的業績に加え、プルタルコスによって伝えられる彼の機知に富んだエピソードは、古代スパルタ黎明期の王権を担った人物の一面を今に伝えています。彼の統治は、後のスパルタ社会の基盤を築く一助となったと考えられています。

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