ソコルスキー・オープニング

ソコルスキー・オープニング（Sokolsky Opening）

ソコルスキー・オープニングは、チェスのオープニングの一つとして分類されるもので、白番の最初の指し手としてポーンをキングサイドから離れたbファイルに移動させる、すなわち1. b4 という一手で始まる戦術です。中央ポーンを動かす一般的なオープニングとは異なるアプローチを取るため、比較的珍しいながらも、相手を戸惑わせる奇襲的な要素を持つ場合があります。

名前の由来

このオープニングの名前は、20世紀半ば、具体的には1930年代中盤から1950年代にかけて活躍したウクライナ出身のチェスプレーヤー、アレクセイ・ソコルスキー氏（1908年 - 1969年）の功績にちなんで付けられました。彼はこのオープニングの研究や実戦での採用に貢献したことで知られています。

別称「オランウータン」とその背景

ソコルスキー・オープニングは、「ポーランド定跡」あるいは「ポーリッシュ・オープニング」という別名でも呼ばれることがあります。さらに、1. b4という特定のオープニング形には、「オランウータン・オープニング」や、短く「オランウータン」という愛称が付けられています。このユニークな名前の由来については、いくつかの説が伝えられています。

最も広く受け入れられている説の一つは、ロシアに生まれ後にポーランドに移住したチェスプレーヤー、サベリ・タルタコワ氏（1887年 - 1956年）にまつわるものです。1924年にニューヨークで開催されたチェス・トーナメントの期間中にブロンクス動物園を訪れた際、タルタコワ氏はそこで見たオランウータンからインスピレーションを得たと主張しており、実際にこのオープニングを実戦で採用しました。特に、有名なゲザ・マロツィとの対局でこの手を用いたことが記録されています。

他の説としては、1. b4とポーンを進める動きが、木に登るオランウータンの様子を連想させる、あるいはオランウータンが腕をだらんと垂らしている姿に似ていることから名付けられたというものもあります。これらの興味深いエピソードや見立てが、「オランウータン」という親しみやすい名前の由来となったと考えられています。

主な変化の例

1. b4に対して、黒が中央のポーンを突き出す1... e5という応手は非常によく見られます。この後の典型的な変化の一例は以下の通りです。

1. b4 e5
2. Bb2 f6
3. b5 d5
4. e3 Be6
5. Nf3 Bd6
6. d4 e4
7. Nfd2 f5
8. c4 c6
9. Nc3 Nf6
10. Be2 O-O
11. O-O Nbd7

黒が2手目に、白のb4ポーンをすぐに取る2... Bxb4という手を選んだ場合、白は3. Bxe5と応じることができます。これにより、白はb4ポーンを失いますが、黒は中央のe5ポーンを失うことになり、一般的に白が駒の価値交換において有利な局面を迎えます。また、黒が2手目に2... Nc6とナイトを展開した場合、白は3. b5とポーンをさらに進め、黒が 3... Nd4 と応じた後に 4. e3 と指すことで、黒のe5ポーンを攻撃し、最終的にこれを獲得しやすい形となります。

白の3手目として、3. e4と中央に働きかける手も有力な選択肢です。これに対する黒の主な応手は、3... Bxb4と3... d5の二通りが考えられます。

黒が3... Bxb4とポーンを取った場合、4. Bc4 Qe7のような進行が予想されます。もしこの局面で黒が4... Ne7と指すと、白は5. Qh5+ とチェックをかけ、黒がポーンで防ぐ 5... g6 と指さざるを得なくなり、キング側のポーン構造が乱れる可能性があります。また、1958年のソコルスキー対ストルガッチ戦では、3. e4 Bxb4 4. Bc4 に対し、黒が4... Nc6と応じました。これに対し白のソコルスキーは 5. f4 と大胆に中央を突き、efと進んだ後、わずか16手で黒が投了するという短手数で勝利を収めた実戦例があります。

一方、黒が3. e4に対して3... d5と中央で対抗した場合、4. f4 ef 5. Qh5+ g6 6. Qxd5 Qxd5 7. ed Bxb4 のように変化が進むことが知られています。

ソコルスキー・オープニングは、定跡から外れた意外な手でゲームを開始したいプレーヤーにとって魅力的な選択肢となり得ます。奇襲性を活かし、相手の準備不足を突くことで主導権を握ることを目指すオープニングと言えるでしょう。

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