ソピステス

プラトン『ソピステス』：ソフィストとは何か？

プラトンの後期対話篇『ソピステス』（Σοφιστής）は、『テアイテトス』に続く作品であり、「存在について」を副題に掲げています。前作で展開された議論の翌日、ソクラテス、テアイテトス、テオドロス、そしてエレアから訪れた哲学者（客人）が、アテナイの体育場（ギュムナシオン）で集まり、ソフィストの本質についての議論を展開します。

議論の展開：ソフィスト、政治家、哲学者

ソクラテスは、エレアの客人こそが論争術のエキスパート、つまりソフィストではないかと疑いますが、テオドロスは客人を哲学者として擁護します。そこでソクラテスは、エレアにおいてソフィスト、政治家、哲学者はどのように区別されているのかを客人に問いかけます。

客人によると、三者は明確に区別されていますが、その定義を説明するには労力を要するとのことでした。そこでソクラテスは、テアイテトスを相手に問答（弁証術）を通してソフィストを解明していくことを提案します。客人はこの提案を受け入れ、テアイテトスとの問答が物語の中心となります。

分割法（ディアイレシス）によるソフィストの解明

客人は、まず「魚釣師」の技術を例に、二分割法（対象を繰り返し二分することで本質を明らかにする手法）を説明します。この手法を用いて、「ソフィストの技術」を様々な角度から分析し、その本質を探ります。

ソフィストの技術は、当初は富裕層の若者への有償教育という定義から出発しますが、議論は複雑化し、以下のような様々な規定が提示されます。

金持ちの若者を教育し報酬を得る技術
徳に関する知識を売買する技術
正義や不正に関する論争で金儲けをする技術
魂の浄化を目的とした論駁術（ただし、これはソクラテスの弁証術に近いと客人も認めている）
* 影のような似姿を作り、若者に知者だと信じ込ませる技術

「虚偽の存在」をめぐる困難

これらの規定を検討する過程で、「虚偽の存在」という問題が浮上します。客人の師であるパルメニデスは、「非有は有る」という考えを否定していました。この問題を解決するために、客人とテアイテトスは「有」と「非有」の概念、そして「虚偽」の成立条件について深く議論します。「非有」は「有」の反対ではなく「異なるもの」であり、個別の対象と対置することで存在を確立するという結論に達します。

「虚偽」は、「真」と「偽」の言表、判断、現われを区別することで成立する事が示されます。「真」は「有る事柄」に対応し「偽」は「有る事柄」とは異なる「非有」に対応する言表であると説明されます。

「ソフィストの技術」の最終的定義

最終的に客人たちは、「ソフィストの技術」とは、矛盾を作り出す言論の技術であると結論づけます。これは、似像を作る技術や見かけだけを作る技術、さらには無知に自覚的もしくは無自覚な状態で知識を操る技術を含みます。そして、そのような技術を使う者を「ソフィスト」と定義づけました。

プラトン後期作品の特徴

『ソピステス』は、プラトン後期作品の特徴をよく表しています。ソクラテスは議論の中心人物ではありますが、プラトンの思想を直接語る役割はエレアの客人（『ポリティコス』では客人、『ティマイオス』ではティマイオスなど）が担っています。また、「分割法」を用いた論理展開も、後期作品に共通する特徴と言えるでしょう。この作品は、『テアイテトス』、『ポリティコス』と合わせて三部作をなし、さらに幻の続編『ピロソポス（哲学者）』の存在も示唆されています。これらの作品群は、プラトンの哲学の深遠さと複雑さを示す重要な一連の作品群として評価されています。

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