ソユーズT-8

ソユーズT-8（Soyuz T-8 / Союз Т-8）は、1983年4月20日にソビエト連邦によって打ち上げられた有人宇宙船ミッションです。この計画は、軌道上に滞在中の宇宙ステーション「サリュート7号」へ新たな乗組員を輸送し、ドッキングすることを主目的としていました。しかし、予期せぬ技術的問題が発生したため、ソユーズT-8は目的を達成できず、比較的短期間で地球へ帰還することになりました。この宇宙船のコールサインは「Okean（大洋）」でした。

ソユーズT-8には、3名の経験豊富な宇宙飛行士が乗り組みました。指揮官はウラジーミル・チトフ（彼にとって最初の宇宙飛行）、航空機関士はゲンナジー・ストレカロフ（2回目の飛行）、研究コズモノートはアレクサンドル・セレブロフ（こちらも2回目の飛行）です。また、このミッションのバックアップクルーとしては、ウラジーミル・リャコフ、アレクサンドル・アレクサンドロフ、ヴィクトル・サヴィヌイフが指名されていました。

ソユーズT-8宇宙船の飛行に関する基本諸元は以下の通りです。

質量: 6850 kg
近点高度: 200 km
遠点高度: 230 km
軌道傾斜角: 51.6度
* 軌道周期: 88.6分

宇宙船は順調に打ち上げられ、地球周回軌道に入りました。その後、サリュート7号への接近およびドッキングシーケンスが開始されましたが、ここで重大な不具合が発生しました。宇宙船に搭載されていた、ランデブーに必要なレーダーアンテナの展開ブームが、設計通りに伸展しなかったのです。このレーダーシステムは、宇宙ステーションとの正確な距離や相対速度を計測し、自動ドッキングシステムを運用するために不可欠な構成要素でした。

乗組員は、アンテナが展開するよう、手動での操作を複数回試みました。彼らはアンテナブームが宇宙船の軌道モジュールに引っかかっているか、固着していると考え、姿勢制御スラスタを噴射して衝撃を与えるなど、様々な工夫を凝らしましたが、いずれも効果はありませんでした。後の詳細な飛行後調査によって、アンテナのブームは打ち上げ時のペイロード分離時に物理的に破損し、ちぎれてしまっていたことが判明します。存在しないアンテナを展開させようとする試みが無駄であったのは当然の結果でした。

レーダーシステムが使用不能となったため、当初予定されていた自動ドッキングは不可能となりました。それでもミッションコントロールセンターは、異例の措置として、乗組員の目視観測情報と地上からのレーダー追跡データのみを頼りに、手動でのランデブーとドッキングを試みることを決定しました。これは極めて高度な技能と集中力を要する危険な試みであり、特に宇宙空間での相対運動の正確な把握が求められました。この試行は政府の許可を得て実行されました。

サリュート7号への最終的な接近段階は、宇宙船が地球の影に入り、周囲が完全な暗闇の中で行われました。指揮官のウラジーミル・チトフは、視覚情報と限られたデータに基づいて操縦していましたが、接近速度が設計値よりも大幅に速いことに気づきました。危険回避のため、彼は手動操縦に切り替えて速度を落とそうとしましたが、それでも速度が依然として速すぎると判断しました。このままドッキングを強行すれば、宇宙ステーションに衝突する危険性が非常に高いと考えたチトフ船長は、やむを得ずランデブーの中断を決定しました。一度中断された後、再びドッキングを試みることはありませんでした。

この宇宙ステーションへのドッキング失敗は、ソビエトの有人宇宙飛行の歴史において、1979年のソユーズ33号ミッション以来の出来事となりました。

ドッキング試行とその緊急中断により、ソユーズT-8宇宙船は計画外の燃料を消費しました。安全な地球帰還に必要な燃料を確保するため、乗組員は複数の対策を講じました。その一つとして、高度制御システムを停止し、燃料消費を抑えるために宇宙船をゆっくりと回転させる「スピン安定モード」に切り替えました。この方式は、1970年代初頭のソユーズ宇宙船で燃料節約のために用いられていたものです。

ミッションの当初の目的であるドッキングは達成できませんでしたが、3名の乗組員は困難な状況下で的確な判断と操作を行い、安全を確保しました。結局、ソユーズT-8宇宙船は打ち上げから2日と17分48秒の飛行を経て、無事に地球への帰還を果たしました。このミッションは、宇宙飛行における技術の信頼性と、予期せぬ事態に対する乗組員の冷静な対応能力の重要性を浮き彫りにする事例となりました。

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