ソユーズTM-16

ソユーズTM-16（ロシア語名：Союз ТМ-16、英語名：Soyuz TM-16）は、地球軌道上に建設されたロシアの宇宙ステーション「ミール」への人員往来を主な目的とした、ロシア連邦による有人宇宙飛行ミッションです。この飛行は、ソユーズ宇宙船がミール宇宙ステーションを訪れた歴史の中で、通算16回目の成功した有人ミッションとして記録されています。この宇宙船には、交信時に使用される特別な呼び名として「火山」（ロシア語の「ヴィーカン」、вулкан）というコールサインが割り当てられていました。

乗組員

ソユーズTM-16の打上げに際しては、2名のロシア人宇宙飛行士が搭乗しました。このミッションの船長を務めたのはゲンナジー・マナコフ氏で、彼にとってはこれが2回目の宇宙飛行となりました。そして、フライトエンジニアとしてこの宇宙船に乗り込んだアレクサンドル・ポレシチューク氏は、今回の飛行で初めて宇宙空間へと旅立ちました。

彼らはソユーズTM-16でミールに到着した後、宇宙ステーションで約半年間にわたる長期滞在ミッションを遂行しました。ミールでの任務を終え、地球へ帰還する際には、打上げ時に搭乗していたマナコフ氏とポレシチューク氏に加え、彼らの滞在中に後続のソユーズTM-17ミッションでミールにやって来たフランスの宇宙飛行士、ジャン＝ピエール・エニュレ氏も同乗して帰還しました。エニュレ氏もまた、この時が初の宇宙飛行経験でした。

打上げ時の搭乗員
ゲンナジー・マナコフ（ロシア、2回目の宇宙飛行）
アレクサンドル・ポレシチューク（ロシア、1回目の宇宙飛行）

帰還時の搭乗員
ゲンナジー・マナコフ（ロシア）
アレクサンドル・ポレシチューク（ロシア）
* ジャン＝ピエール・エニュレ（フランス、ソユーズTM-17ミッションでミールに合流）

ミッションにおける重要な特徴

ソユーズTM-16ミッションにおいて、技術的に最も注目すべき点は、そのドッキングシステムにありました。この飛行では、1976年以降のソユーズ宇宙船で長らく標準的に採用されてきた、プローブ・アンド・ドローグ方式と呼ばれるドッキング機構が用いられませんでした。

代わりに使用されたのは、APAS-89（Androgynous Peripheral Attach System）という新型のドッキングシステムでした。このAPAS-89は、1975年にアメリカとソビエト連邦が共同で実施したアポロ・ソユーズテスト計画で使われたAPAS-75システムの設計思想を受け継いでいます。両システムは、どちら側の宇宙船も接続時に能動側または受動側になりうる「両性具有型」という基本的な原理を共有していますが、APAS-89にはいくつかの改良が加えられていました。

ソユーズTM-16は、このAPAS-89ドッキングシステムを使い、ミール宇宙ステーションの特に「クリスタル」と呼ばれる実験モジュールに正常にドッキングしました。このAPAS-89システムの軌道上での実証は、当時計画が進められていた、アメリカのスペースシャトルとミール宇宙ステーションとの間で将来的に実施される予定だった直接ドッキング運用に向けた、重要な技術試験として位置づけられていました。異なる設計思想を持つ宇宙船同士が安全に接続できる能力を確認することは、今後の国際的な宇宙協力、特に米露間の連携強化のために不可欠なステップだったのです。

ソユーズTM-16でミールに到着したゲンナジー・マナコフ飛行士とアレクサンドル・ポレシチューク飛行士は、約半年の長期滞在期間中に、APAS-89ドッキングポートの評価を含む様々なミッション目標を遂行しました。彼らは、ミールでの任務完了後、ソユーズTM-17で合流したフランスのジャン＝ピエール・エニュレ飛行士と共に、ソユーズTM-16宇宙船に乗って地球への帰還を果たしました。

このミッションは、単にミールへの人員交代を果たしただけでなく、ソユーズ宇宙船の技術的な柔軟性を示し、特に異種間の宇宙船ドッキング技術の発展に貢献したという点で、宇宙開発史における重要な役割を担いました。APAS-89システムの実証は、その後のスペースシャトル・ミール計画の成功に欠かせない基盤技術となったのです。

もう一度検索