ソユーズTM-7

ソユーズTM-7は、ソビエト連邦が運用していた軌道上の宇宙ステーション「ミール」への7回目となる定期人員輸送ミッションとして、1988年末から1989年初頭にかけて実施されました。このフライトは、宇宙開発における国際協力の進展や、宇宙での科学技術活動においていくつかの重要な出来事を記録しています。

ミッションの開始と乗組員構成

このミッションは、1988年 11月26日にカザフ・ソビエト社会主義共和国（現カザフスタン共和国）のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。本来、打ち上げは11月21日に予定されていましたが、当時のフランス共和国大統領であるフランソワ・ミッテラン氏が打ち上げに立ち会うことを希望したため、スケジュールが数日間変更されました。

ソユーズTM-7に搭乗した主要な乗組員は、以下の3名です。

アレクサンドル・ヴォルコフ氏（司令官、2回目の宇宙飛行）
セルゲイ・クリカレフ氏（フライトエンジニア、初の宇宙飛行）
* ジャン＝ルー・クレティエン氏（研究宇宙飛行士、フランス国立宇宙研究センター所属、2回目の宇宙飛行）

クレティエン氏は、ソビエト連邦あるいはアメリカ合衆国以外の国籍を持つ宇宙飛行士として、ミールを訪れた2人目のフランス人宇宙飛行士となりました。

ミールにドッキングした後、乗組員の交代が行われました。ソユーズTM-7で到着したヴォルコフ氏とクリカレフ氏は、既にミールに滞在していたヴァレリ・ポリヤコフ氏と合流し、ミールでの長期滞在任務に就きました。一方、短期滞在のミッションであったジャン＝ルー・クレティエン氏は、先にソユーズTM-6でミールに到着していたアナトリー・チトフ氏、ムサ・マナロフ氏とともに、ソユーズTM-6の帰還カプセルを使用して地球へ戻りました。

ソユーズTM-7の帰還時には、長期滞在任務を終えたアレクサンドル・ヴォルコフ氏、セルゲイ・クリカレフ氏、そしてヴァレリ・ポリヤコフ氏の3名が搭乗しました。帰還日は1989年4月28日でした。

このミッションの交代要員としては、アレクサンドル・ビクトレンコ氏、アレクサンドル・セレブロフ氏、そしてもう一人のフランス人宇宙飛行士であるミシェル・トニーニ氏が準備していました。

歴史的な船外活動

ソユーズTM-7ミッションにおける最も重要な出来事の一つは、ジャン＝ルー・クレティエン氏によって行われた船外活動（Extravehicular Activity - EVA）です。これは、ソビエト連邦とアメリカ合衆国以外の国籍を持つ宇宙飛行士が実施した、史上初の単独、あるいは主導的な宇宙空間での船外活動となりました。

船外活動は、ミールとのドッキングから数日後の1988年12月9日に敢行されました。この船外活動に先立つ前日の12月8日には、ミッションに関する状況を47カ国の外交官に報告するためのテレビ会議が予定されていましたが、来るべき船外活動のための準備時間を確保するため、会議は途中で打ち切りとなりました。

船外活動には、ジャン＝ルー・クレティエン氏とアレクサンドル・ヴォルコフ氏の2名が参加しました。彼らはまず、ミールのマルチポートドッキングアダプタの区画を減圧して船外に出ました。最初に船外に出たクレティエン氏は、船体に取り付けられた既存の手すりに新しい手すりを固定しました。続いて、フランス国立宇宙研究センター（CNES）が開発した約15.5キログラムの実験用ラック「Echantillons」装置を船外に運び出し、バネとフックを使用して手すりに取り付けました。このEchantillons装置は、将来欧州宇宙機関（ESA）が計画していた宇宙往還機「エルメス」で使用される予定だった、5種類の科学実験装置を搭載していました。装置の取り付け後、電源供給のためのケーブル接続作業も行われました。

さらに、総重量がおよそ240キログラムにも及ぶ欧州ロボットアーム（ERA）の関連装置の取り付け作業も行われました。彼らはまずERAの架台部分を手すりに固定し、次にERA本体をミールの制御盤に接続するための配線作業を実施しました。最後に、折り畳まれた状態のERA本体を、ミール船体から伸びるサポートアームに取り付けました。ERAは、展開時には直径3.8メートル、深さ1メートルの平たい六角柱状の構造になるように設計されていました。

ミール船内では、フライトエンジニアのセルゲイ・クリカレフ氏が、管制センターからの指示を受けてERAの展開を試みましたが、ERAは初期の指令に応じませんでした。しかし、船外にいたヴォルコフ氏がERAを軽く蹴ると、突然メカニズムが作動し、アームは正常に展開しました。クリカレフ氏はこの大型装置を船外に移設できたことで、ミール内部の居住区の混雑が軽減されたと後に述べています。この歴史的な船外活動は、合計で5時間57分にも及ぶ長時間の作業となりました。

地球への帰還と着陸

ミッションの最終段階として、ソユーズTM-7カプセルによる地球への帰還が1989年4月28日に実施されました。大気圏再突入後、カプセルの着陸システムは垂直方向の降下速度を適切に減速させるなど、概ね良好に作動しました。しかし、着陸が予定されていた地点付近には当時強い風が吹いており、この風の影響でカプセルの水平方向の速度を十分に抑えきることができませんでした。結果として、帰還カプセルは地面に接触した後、横滑りするように側面を擦りながら停止しました。このやや衝撃の強い着陸により、セルゲイ・クリカレフ氏は膝に軽い打撲を負ったものの、幸いにも乗組員に重傷はなく、ミッションは無事に終了しました。

宇宙空間で鳴り響いた音楽

このミッションには、文化的な側面での注目すべきエピソードも含まれています。ソユーズTM-7の乗組員は、イギリスの伝説的なロックバンド「ピンク・フロイド」のライブアルバム『光〜PERFECT LIVE!』のカセットテープを、宇宙ステーションに持ち込みました。宇宙船に搭載できる荷物には厳格な重量制限があるため、カセットテープはプラスチック製のケースから取り出され、テープ本体のみが持ち込まれたとされています。軌道上でこのカセットテープが再生されたことは、人類が宇宙空間で初めて音楽作品を再生・聴取した事例の一つであると考えられています。偶然か必然か、ピンク・フロイドのメンバー自身も、ソユーズTM-7の打ち上げ当日にバイコヌール宇宙基地に立ち会っており、歴史的なミッションの旅立ちを見届けました。

まとめ

ソユーズTM-7ミッションは、宇宙ステーション「ミール」への人員交代という本来の目的を果たすだけでなく、フランス人宇宙飛行士による歴史的な船外活動の成功、欧州の宇宙開発プログラムに関連する重要な装置の設置、そして宇宙空間で音楽が再生されたというユニークなエピソードまで、多岐にわたる出来事を含んだミッションでした。これは、宇宙探査がソビエト連邦やアメリカ合衆国といった大国だけのプロジェクトから、国際的な協力体制へと広がりつつあった時代の象徴であり、また宇宙における人間の活動が科学技術的な側面に加えて、文化的な要素をも含むようになってきたことを示唆するものでした。

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