ソルブ人

ソルブ人：ドイツに暮らす少数民族の歴史と文化

ソルブ人（ソルビア人）は、ドイツ連邦共和国の東部に在住するスラヴ民族の一派であり、ソルブ語を話します。本記事では、ソルブ人の歴史、文化、そして現代における状況について詳しく解説します。

ソルブ人の概要

ソルブ人は、高地ソルブ語と低地ソルブ語の2つの言語グループに分かれています。現在、ドイツに住むソルブ人は約6万人とされ、ザクセン州北東部に住む高地ソルブ語派が4万人、ブランデンブルク州南東部に住む低地ソルブ語派が約2万人とされています。しかし、ソルブ語を日常的に使うのは1万人から3万人程度で、その多くはドイツ語とのバイリンガルです。ソルブ人が住む地域は、歴史的にラウジッツと呼ばれています。

歴史

第二次世界大戦まで

ソルブ人は、中世までエルベ川東岸地域に住んでいたポラビア・スラブ人の最後の生き残りと考えられています。この地域はドイツ人による東方植民の影響を受け、急速にドイツ化が進みました。18世紀には、この地域のスラヴ人がソルブ人と呼ばれるようになります。19世紀末には、ラウジッツに約15万人のソルブ人が住んでおり、単一言語話者が多数派でしたが、ドイツ帝国からヴァイマル共和国時代にかけての「ドイツ化」政策により、1920年代にはドイツ語とのバイリンガルが多数派となりました。

1933年に成立したナチス政権は、ソルブ人を「ソルブ語を話すドイツ人」とみなし、「再ドイツ化」政策を推進しました。1937年にはソルブ人の民族権利擁護団体であるドモヴィナを禁止し、1939年には最後のソルブ語新聞を廃刊、教師や司祭を追放し強制収容所へと送りました。これらの政策により、ラウジッツにおけるソルブ人は少数派へと転落しました。

戦後の独立志向から東ドイツへ

1945年、第二次世界大戦でドイツが敗北すると、ラウジッツはソ連の軍政下に入りました。プラハで組織されたラウジッツ・ソルブ民族評議会は、チェコスロバキアの保護による独立を目指しましたが、ソ連は旧ドイツ領内でのソルブ国家の樹立を認めませんでした。しかし、ソ連占領下でソルブ人の状況は改善され、1945年にドモヴィナが再建、1947年にソルブ語新聞が復刊、1948年にはブディシンにソルブ語の文法学校が設立されました。

1949年に成立した東ドイツは、ソルブ人の文化保護に力を入れました。1951年にはベルリン・ドイツ科学アカデミーとライプツィヒ大学でソルブ文化研究が開始され、1968年の東ドイツ憲法では、ソルブ民族に属する市民は母語と文化を育成する権利を有すると規定されました。

ドイツ統一後の状況

1989年のベルリンの壁崩壊後、ソルブ人の民族評議会は、自分たちとの対話と官製化されたドモヴィナの改革を要求しました。1990年のドイツ再統一後、ドモヴィナは改組され独立性を持ったソルブ人民財団が設立されました。連邦政府は旧東ドイツを再編し、ラウジッツはブランデンブルク州とザクセン州に分割されましたが、両州の憲法はソルブ人に少数民族としての権利を与えていません。しかし、ソルブ語を使う学校への通学、自治体でのソルブ語使用、道路標識へのソルブ語併記などは認められています。2005年には民族権利の擁護を目指すヴェンディッシュ民族党が設立されました。

文化

ソルブ文化は、特に復活祭のイースターエッグ作りで有名です。また、1月25日には冬の終わりを祝う「小鳥の結婚式」という祭事が行われます。この祭では、子供たちが結婚式の真似事をしたり、小鳥の形をしたパンを作ったりします。

地名

ドイツ東部の地名の多くはスラヴ語起源であり、ソルブ語に由来するものも少なくありません。ラウジッツの地名で-auや-owで終わるものは、ソルブ語起源の可能性があります。例えば、Zittau（ツィッタウ）やZwickau（ツウィッカウ）などが挙げられます。ベルリン西部のSpandau（シュパンダウ）も、スラヴの一派ヘーベル人によって興されたと考えられています。

ドイツ国外のソルブ人社会

19世紀半ば、プロテスタント系のソルブ人がアメリカのテキサス州やオーストラリアに移住しました。テキサス中部のソルブ人はドイツ文化を受容しましたが、「テキサス・ウェンディッシュ・ヘリテージ・ソサエティ」はソルブ語でのフェスティバルを開催し、ソルブ文化を継承しています。オーストラリアのソルブ人もドイツ系移民の一部と見なされています。

まとめ

ソルブ人は、ドイツに住む少数民族であり、独自の言語と文化を持っています。彼らは歴史の中で様々な困難に直面しましたが、現在も文化を守り続けています。ソルブ人の存在は、ヨーロッパの多様性を示す重要な一例と言えるでしょう。

もう一度検索