ソーホー・ハウス

イングランド中部に位置するバーミンガム市ハンズワース地区に佇むソーホー・ハウスは、18世紀イギリスの産業革命を牽引した稀代の起業家、マシュー・ボールトン（Matthew Boulton, 1728-1809）が晩年を過ごした由緒ある邸宅です。

ボールトンは、1761年に近隣にあったソーホー水車（Soho Mill）の賃借権を取得したことからこの地に深く関わるようになります。彼はこの水車を後に一大工場であるソーホー工場（Soho Manufactory）へと発展させ、ここで様々な革新的な製品を生み出しました。ソーホー・ハウスは、この工場の完成と同じ1766年に、工場に隣接していた既存の建物を大幅に増改築して建設されたものです。ボールトンはここを自身の住居とし、1809年に亡くなるまで約40年間、居を構えました。

現在のソーホー・ハウスの建物は、1789年に建築家サミュエル・ワイアット（Samuel Wyatt）の設計で建設が始まりました。その後、1796年にはサミュエルの弟であるジェームズ・ワイアット（James Wyatt）の設計により拡張工事が行われ、特に正面玄関部分がこの時に増築されています。建物の外観は、塗装されたスレートが表面を覆っており、まるで大きな石材ブロックで構築されているかのような印象を与えます。この邸宅は、その歴史的・建築的な価値から、イギリス指定建造物のグレード2*に登録されています。

ソーホー・ハウスは、単なる邸宅以上の意味を持つ場所でした。マシュー・ボールトンは、蒸気機関の改良で知られるジェームズ・ワット（James Watt）と協力し、共に画期的な技術開発と事業展開を行いました。また、彼自身が中心人物の一人であった、科学者、哲学者、産業家などが集まる非公式な学会「ルナー・ソサエティ（Lunar Society of Birmingham）」の主要な会合場所としてもソーホー・ハウスは頻繁に利用されました。月の満ち欠けに合わせて満月の夜に集まった彼らは、この邸宅で活発な議論を交わし、当時の科学や技術、哲学の進歩に大きな影響を与えました。

ボールトンが亡くなった後、ソーホー・ハウスは様々な人の手に渡り、学校や警察官の宿舎など、用途を変えながら使われてきました。そして時を経て、1995年にマシュー・ボールトンの功績を称え、彼の生涯や当時の産業、ルナー・ソサエティの活動などを紹介する博物館として開館しました。

現在は、バーミンガム市当局が所有・運営しており、バーミンガム美術館の分館「コミュニティ・ミュージアム」の一つとして位置づけられています。博物館は無料で一般公開されており、常設展示を通じてボールトンの人生や彼の時代の革新に触れることができます。また、地域の歴史や文化に関連する企画展やイベントの会場としても利用されており、市民に開かれた施設となっています。邸宅には、マシュー・ボールトンの功績を記念するブルー・プラークも設置されており、訪れる人々にその歴史を伝えています。

ソーホー・ハウスは、産業革命という歴史的な転換期において重要な役割を果たした人物の生活の場であり、知的な交流が行われた場所として、イギリスのみならず世界の歴史において貴重な遺産と言えます。

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