タイタンII GLV

概要

タイタンII GLV、またはジェミニ・タイタンは、アメリカ合衆国で開発・運用された信頼性の高い使い捨てロケット（ELV）です。これは、もともとアメリカ空軍の大陸間弾道ミサイル（ICBM）として設計された「タイタンII」ミサイルを、有人宇宙飛行に対応できるよう大幅に改修したものです。特に、アメリカ航空宇宙局（NASA）が進めた「ジェミニ計画」において、宇宙飛行士を地球周回軌道へと送り出すための主要な打ち上げ手段として重要な役割を担いました。このロケットは、広範なタイタンロケットシリーズの一員に位置づけられます。

ICBMからの転用と安全性強化

タイタンIIミサイルを有人宇宙飛行用ロケットとして転用するにあたり、安全性と信頼性の向上を目指した様々な改修が施されました。これらの作業は、アメリカ空軍システム軍団の技術的な支援の下で行われました。

主な改修点としては、以下のような項目が挙げられます。
異常検知システムの導入: ロケットの機器に異常が発生した場合、これを早期に検知し、搭乗している宇宙飛行士に速やかに危険を知らせるためのシステムが新たに組み込まれました。これにより、緊急時の対応能力が強化されました。
操縦システムの冗長性向上: 飛行中の制御を担う操縦システムには、バックアップ機能が追加されました。これにより、一部のシステムに不具合が生じても、別の系統が機能を継続できる冗長性が高まり、ミッション全体の信頼性が向上しました。
第2段バーニアの撤去: ミサイルとしての用途では必要とされた第2段部の微調整用バーニアエンジンは、宇宙飛行用ロケットとしての機能においては不要と判断され、取り外されました。これにより、構造の簡素化と軽量化が図られました。
誘導方式の変更: ミサイルに搭載されていた慣性誘導装置は撤去され、地上の管制システムによる外部からの無線誘導が主要な誘導方式となりました。これは、地上の精密な追跡データに基づいた軌道を正確に制御することを目的としています。

これらの改修は、本来軍事目的で開発されたミサイルを、厳格な安全基準が求められる有人宇宙飛行ミッションに適合させるために不可欠でした。

機体の構造と推進システム

タイタンII GLVは、基本的に2段式の液体燃料ロケットとして設計されています。ロケットの最上部には、ジェミニ計画で使用された2人乗りのジェミニ宇宙船が搭載されます。

推進システムは以下の構成で成り立っています。
第1段: 大推力を発生させるため、2基のLR87ロケットエンジンが搭載されています。この第1段が初期の上昇を担います。
第2段: 第1段分離後に点火され、軌道投入を最終的に行う役割を担う第2段には、1基のLR91ロケットエンジンが用いられました。

ロケットの推進剤としては、貯蔵が容易で即時発射に適したハイパーゴリック推進剤が採用されています。具体的には、燃料としてエアロジン-50（ヒドラジンと非対称ジメチルヒドラジンの混合物）が、酸化剤として四酸化二窒素が使用されました。これらの組み合わせは、自己着火性を持つため点火装置がシンプルになる利点がありました。

ジェミニ計画における運用実績

タイタンII GLVは、1960年代半ばのジェミニ計画において、その短い運用期間ながら輝かしい実績を残しました。最初の打ち上げは1964年4月の無人試験飛行であるジェミニ1号で、最後のミッションは1966年11月のジェミニ12号でした。

この期間中に、タイタンII GLVは合計12回の打ち上げに使用されました。特筆すべきはその信頼性の高さで、実施された12回の打ち上げミッションは、すべて成功という驚異的な記録を達成しました。これら12回の打ち上げのうち、ジェミニ1号とジェミニ2号（準軌道無人試験）を除く10回は、宇宙飛行士を乗せた正真正銘の有人宇宙飛行ミッションでした。

すべての打ち上げは、アメリカ合衆国フロリダ州にあるケープカナベラル空軍基地（現在はケープカナベラル宇宙軍基地）の特定の発射施設、LC-19（Launch Complex 19）から行われました。LC-19はタイタンII GLV専用の発射台として整備され、ジェミニ計画の成功を支えました。

タイタンII GLVの確実な運用は、アポロ計画へと繋がるランデブーやドッキングなどの宇宙飛行技術を確立したジェミニ計画の成功に不可欠であり、初期のアメリカ有人宇宙開発において極めて重要な貢献を果たしました。

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