タイピスト!
映画『タイピスト!』は、2012年に製作されたフランスのロマンチックコメディです。原題の「Populaire」は、劇中に登場するタイプライターの機種名から取られています。舞台は1958年から1959年にかけてのフランス北西部。主人公は、片田舎で雑貨店を営む父と共に暮らす女性が、型破りな上司の指導のもと、タイプライター早打ちで世界一を目指す物語です。
主人公ローズ・パンフィルは、周囲から勧められる地元の縁談に乗り気になれず、田舎を離れることを望んでいました。そんな彼女がリジューへ向かい、ルイ・エシャールが経営する保険代理店の秘書面接を受けます。他の応募者がビジネスライクな装いの中、花柄のワンピースで現れたローズはひときわ目を引きました。彼女が面接官であるルイに見せたのは、父の雑貨店にあった西ドイツ製のタイプライター「Triumph」で培ったという驚異的なタイプ早打ちのスキルでした。この特技が評価され、そそっかしい性格ながらも1週間の試用期間付きで採用が決まります。
しかし、タイプスキル以外は不器用なローズに対し、ルイは厳しい現実を突きつけます。仕事を続けるためには、タイプライターの早打ち大会に出場し、そして優勝すること。これが彼が課した絶対条件でした。1958年に初めて出場した地方大会では、あとわずか2文字/分の差で惜敗。この悔しさをバネに、二人は世界大会出場を目指すための本格的な特訓を開始します。
特訓のため、ローズは下宿屋を出てルイの自宅に住み込むことになります。訓練は厳格で、まずは画面を見ずに打つブラインドタッチの徹底。さらに、古典文学作品の書き写し練習に加え、指の繊細な動きを養うため、ルイの幼馴染で元米兵ボブの妻であるマリーからピアノを習います。早朝のランニングなど、肉体的なトレーニングも課されました。この奇妙な同居生活と猛特訓を通して、ローズは最初は「鬼コーチ」に見えたルイの内面に秘められた真実の姿に気づき始めます。選手とコーチ、そして男女としての二人の距離は徐々に縮まっていきます。
1959年、満を持して臨んだバス＝ノルマンディー地方大会で、ローズは見事優勝を果たします。地方紙の一面を飾り、一躍町の有名人となります。しかし、その成功は皮肉にもルイとの間、そして故郷の父との間に微妙なすれ違いを生んでしまいます。クリスマスの夜、行く当てのないローズはマリーを頼ります。マリーは彼女をルイの家へ送り届け、ルイの家族に「婚約者」として紹介します。突然のことに戸惑うルイでしたが、酔ったローズが父に臆することなく本音で反論する姿を見て、その状況を受け入れます。ルイの家族も彼女を温かく迎え入れ、ローズは新たな絆を得ます。
全仏大会出場のため、二人はパリへ向かいます。パリでの滞在中、都会的な洋服を買いに出かけたローズは、それまでのイメージを覆す大胆な真っ赤なドレス姿でルイの前に現れ、彼を驚かせます。互いに反発を感じながらも、この旅を通じて二人の関係はさらに深まり、ついに心と体を重ね合わせます。翌日、全仏大会の決勝戦。ローズの前に立ちはだかるのは、現チャンピオンのアニー・ルプランス＝ランゲでした。アニーはタイプライターメーカー「ジャピー社」の支援を受け、彼女専用に開発された最新機種を使用しており、優勝に絶対の自信を持っています。決勝は両者一歩も譲らない互角の展開となり、勝敗は5分間の延長戦に持ち越されます。延長戦直前、ルイはローズが既にアニーの記録を上回る実力を持っていることを伝え、あえて彼女を挑発し、闘志を燃え上がらせます。その戦略が功を奏し、ローズは全仏チャンピオンの座を勝ち取ります。しかし、優勝の喜びもつかの間、ルイは突然ローズのもとから去ってしまうのでした。
全仏大会優勝後、ジャピー社と契約したローズは、フランス中のマスコミから注目されるスターとなります。数々の雑誌の表紙を飾り、その活躍は故郷の父にも認められ、初めてタイプスキルを学んだ愛着のある「Triumph」タイプライターを贈られます。一方、ルイは新しい秘書を探しますが、誰を雇ってもローズの代わりにはなり得ず、閉塞感を抱いていました。ある日、ルイはマリーのもとを訪れ、なぜ自分が一番ではなかったのかを尋ねます。スポーツでも事業でも、そして恋愛においても一番になれなかったルイにとって、「自分が2番目であることを望んだ」というマリーの言葉は重く響き、彼は胸の内にある不安をマリーに吐露します。
そして舞台は米国ニューヨークへ。世界大会決勝戦は、予想通り、米国代表のスーザン・ハンターとの対決となりました。スーザンには常に心強いパートナーが寄り添っていますが、ローズの隣にはルイがいません。パートナーの不在にローズは動揺を隠せません。決勝は5分間の3本勝負。1戦目はローズが勝利しますが、2戦目はスーザンが自身の持つ世界記録（512文字/分）に並ぶ驚異的な速さで勝利し、タイに戻します。追い詰められたローズは控室に戻り、ジャピー社の最新型「Populaire」ではなく、父から贈られた思い出の「Triumph」を手取ります。その時、ボブと共に到着したルイが駆けつけ、ついにローズへの深い愛を告白します。そして、最後のアドバイスは「叩き潰せ」。3戦目、ローズはかつてないほどの集中力と速さでタイプを打ち始めます。驚異的なスピードのため、活字棒が絡み合うジャミングが発生するアクシデントに見舞われますが、彼女は動じることなく素早く対処し、再び打ち進めます。結果発表を待たず、ステージ上で抱き合った二人は熱いキスを交わします。最終的に、ローズは世界記録を更新して優勝を果たし、世界最速タイピストの栄冠を掴み取ります。同じ頃、ボブはルイが以前思いついたゴルフボール式のタイプライターヘッドのアイデアをアメリカ企業に売り込んでいました。なぜフランスのアイデアをアメリカに売るのか問われたボブは、こう答えます。「アメリカ人はビジネスを、フランス人は愛を」。
本作は、監督のレジス・ロワンサルがテレビドキュメンタリーから着想を得て製作されました。主人公ローズ役には、150人もの候補者の中からデボラ・フランソワが選ばれました。デボラは役作りのため、撮影の約半年前から毎日2～3時間のタイピング特訓を行い、劇中の全てのタイピングシーンをスタントなしで演じ切っています。その驚異的なスキルは、映像の早送りといった編集も一切用いられていません。衣装はデザイナーのシャルロット・ダヴィッドが手掛け、世界大会の衣装はデボラ本人と相談しながら制作されました。小道具として使用された1950年代のタイプライターは、世界中から約200台が集められ、劇中設定に合わせて再塗装されています。特にローズが使用するピンクの「Populaire」は特注品です。本作は、2012年のフランスでの公開後、イギリスやアメリカでも上映され、日本でも2013年のフランス映画祭での上映を機に劇場公開されました。フランス映画祭では観客賞を受賞し、劇場公開後の満足度調査でも高い評価を得るなど、多くの観客を魅了した作品です。
主人公ローズ・パンフィルは、周囲から勧められる地元の縁談に乗り気になれず、田舎を離れることを望んでいました。そんな彼女がリジューへ向かい、ルイ・エシャールが経営する保険代理店の秘書面接を受けます。他の応募者がビジネスライクな装いの中、花柄のワンピースで現れたローズはひときわ目を引きました。彼女が面接官であるルイに見せたのは、父の雑貨店にあった西ドイツ製のタイプライター「Triumph」で培ったという驚異的なタイプ早打ちのスキルでした。この特技が評価され、そそっかしい性格ながらも1週間の試用期間付きで採用が決まります。
しかし、タイプスキル以外は不器用なローズに対し、ルイは厳しい現実を突きつけます。仕事を続けるためには、タイプライターの早打ち大会に出場し、そして優勝すること。これが彼が課した絶対条件でした。1958年に初めて出場した地方大会では、あとわずか2文字/分の差で惜敗。この悔しさをバネに、二人は世界大会出場を目指すための本格的な特訓を開始します。
特訓のため、ローズは下宿屋を出てルイの自宅に住み込むことになります。訓練は厳格で、まずは画面を見ずに打つブラインドタッチの徹底。さらに、古典文学作品の書き写し練習に加え、指の繊細な動きを養うため、ルイの幼馴染で元米兵ボブの妻であるマリーからピアノを習います。早朝のランニングなど、肉体的なトレーニングも課されました。この奇妙な同居生活と猛特訓を通して、ローズは最初は「鬼コーチ」に見えたルイの内面に秘められた真実の姿に気づき始めます。選手とコーチ、そして男女としての二人の距離は徐々に縮まっていきます。
1959年、満を持して臨んだバス＝ノルマンディー地方大会で、ローズは見事優勝を果たします。地方紙の一面を飾り、一躍町の有名人となります。しかし、その成功は皮肉にもルイとの間、そして故郷の父との間に微妙なすれ違いを生んでしまいます。クリスマスの夜、行く当てのないローズはマリーを頼ります。マリーは彼女をルイの家へ送り届け、ルイの家族に「婚約者」として紹介します。突然のことに戸惑うルイでしたが、酔ったローズが父に臆することなく本音で反論する姿を見て、その状況を受け入れます。ルイの家族も彼女を温かく迎え入れ、ローズは新たな絆を得ます。
全仏大会出場のため、二人はパリへ向かいます。パリでの滞在中、都会的な洋服を買いに出かけたローズは、それまでのイメージを覆す大胆な真っ赤なドレス姿でルイの前に現れ、彼を驚かせます。互いに反発を感じながらも、この旅を通じて二人の関係はさらに深まり、ついに心と体を重ね合わせます。翌日、全仏大会の決勝戦。ローズの前に立ちはだかるのは、現チャンピオンのアニー・ルプランス＝ランゲでした。アニーはタイプライターメーカー「ジャピー社」の支援を受け、彼女専用に開発された最新機種を使用しており、優勝に絶対の自信を持っています。決勝は両者一歩も譲らない互角の展開となり、勝敗は5分間の延長戦に持ち越されます。延長戦直前、ルイはローズが既にアニーの記録を上回る実力を持っていることを伝え、あえて彼女を挑発し、闘志を燃え上がらせます。その戦略が功を奏し、ローズは全仏チャンピオンの座を勝ち取ります。しかし、優勝の喜びもつかの間、ルイは突然ローズのもとから去ってしまうのでした。
全仏大会優勝後、ジャピー社と契約したローズは、フランス中のマスコミから注目されるスターとなります。数々の雑誌の表紙を飾り、その活躍は故郷の父にも認められ、初めてタイプスキルを学んだ愛着のある「Triumph」タイプライターを贈られます。一方、ルイは新しい秘書を探しますが、誰を雇ってもローズの代わりにはなり得ず、閉塞感を抱いていました。ある日、ルイはマリーのもとを訪れ、なぜ自分が一番ではなかったのかを尋ねます。スポーツでも事業でも、そして恋愛においても一番になれなかったルイにとって、「自分が2番目であることを望んだ」というマリーの言葉は重く響き、彼は胸の内にある不安をマリーに吐露します。
そして舞台は米国ニューヨークへ。世界大会決勝戦は、予想通り、米国代表のスーザン・ハンターとの対決となりました。スーザンには常に心強いパートナーが寄り添っていますが、ローズの隣にはルイがいません。パートナーの不在にローズは動揺を隠せません。決勝は5分間の3本勝負。1戦目はローズが勝利しますが、2戦目はスーザンが自身の持つ世界記録（512文字/分）に並ぶ驚異的な速さで勝利し、タイに戻します。追い詰められたローズは控室に戻り、ジャピー社の最新型「Populaire」ではなく、父から贈られた思い出の「Triumph」を手取ります。その時、ボブと共に到着したルイが駆けつけ、ついにローズへの深い愛を告白します。そして、最後のアドバイスは「叩き潰せ」。3戦目、ローズはかつてないほどの集中力と速さでタイプを打ち始めます。驚異的なスピードのため、活字棒が絡み合うジャミングが発生するアクシデントに見舞われますが、彼女は動じることなく素早く対処し、再び打ち進めます。結果発表を待たず、ステージ上で抱き合った二人は熱いキスを交わします。最終的に、ローズは世界記録を更新して優勝を果たし、世界最速タイピストの栄冠を掴み取ります。同じ頃、ボブはルイが以前思いついたゴルフボール式のタイプライターヘッドのアイデアをアメリカ企業に売り込んでいました。なぜフランスのアイデアをアメリカに売るのか問われたボブは、こう答えます。「アメリカ人はビジネスを、フランス人は愛を」。
本作は、監督のレジス・ロワンサルがテレビドキュメンタリーから着想を得て製作されました。主人公ローズ役には、150人もの候補者の中からデボラ・フランソワが選ばれました。デボラは役作りのため、撮影の約半年前から毎日2～3時間のタイピング特訓を行い、劇中の全てのタイピングシーンをスタントなしで演じ切っています。その驚異的なスキルは、映像の早送りといった編集も一切用いられていません。衣装はデザイナーのシャルロット・ダヴィッドが手掛け、世界大会の衣装はデボラ本人と相談しながら制作されました。小道具として使用された1950年代のタイプライターは、世界中から約200台が集められ、劇中設定に合わせて再塗装されています。特にローズが使用するピンクの「Populaire」は特注品です。本作は、2012年のフランスでの公開後、イギリスやアメリカでも上映され、日本でも2013年のフランス映画祭での上映を機に劇場公開されました。フランス映画祭では観客賞を受賞し、劇場公開後の満足度調査でも高い評価を得るなど、多くの観客を魅了した作品です。
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