デボラ・フランソワ

ベルギーが生んだ実力派女優、デボラ・フランソワは、1987年 5月24日にこの世に生を受けました。地方都市リエージュで、警察官の父とソーシャルワーカーの母のもと、三人きょうだいの真ん中として育ちました。姉と弟がいます。幼い頃からワロン地域圏のリエージュで生活し、わずか5歳で地元の舞台版『白雪姫』で主役を演じたことが、彼女が演技の世界に足を踏み入れる最初のきっかけとなりました。その後、高校では演劇コースを選び、さらにその道を深めていきます。

鮮烈な映画デビュー

高校生だった16歳の時、彼女の運命は大きく動きます。ある映画のキャスティングで、名匠として知られるジャン＝ピエール＆リュック・ダルデンヌ兄弟の目に留まったのです。そして、2005年に公開された彼らの監督作『ある子供』で、主人公の女性役に抜擢され、プロの女優としてのキャリアをスタートさせました。

『ある子供』は、彼女の故郷からそう遠くない、かつて栄えた工業都市セランを舞台にした社会派ドラマです。若いカップルであるブリュノとソニアを中心に物語が展開します。彼らは国の社会保障給付と、泥棒グループのリーダーであるブリュノの稼ぎで生活していました。衝撃的な出来事が起こるのは、ソニアが子どもを産んだ時です。若い父親は、感情を示すこともなく、我が子をディーラーに売り渡してしまいます。この作品を観たデボラの両親は涙したと言われています。

この映画は、2005年のカンヌ国際映画祭で初めて上映され、評論家から絶賛されました。そして、最高賞であるパルムドールを見事に獲得します。デボラ・フランソワ自身の演技も高く評価され、ベルギー国内の映画賞であるジョゼフ・プラトー賞を受賞。さらに、フランス映画界の権威ある賞であるセザール賞では、将来を期待される若手女優に贈られる有望若手女優賞にノミネートされました。この映画での成功を受け、彼女は高校での生活を終え、女優業に専念することとなります。

続く評価とキャリアの広がり

デビュー作の成功に続き、彼女はすぐに次なる重要な役を得ます。ドゥニ・デルクール監督のスリラー映画『譜めくりの女』です。この作品で彼女が演じたのは、クールで計算高く、ブルジョワジーへの復讐を心に誓う肉屋の娘、メラニーでした。かつて、彼女はピアノの才能に大きな希望を抱いていましたが、有名なピアニストであり、審査委員長であったカトリーヌ・フロ（カトリーヌ・フロが演じた）の不注意によって、その夢は打ち砕かれていました。時を経て、メラニーはまず世話人として、そしてやがてピアニストの譜めくり役として、ひそかにフロの家族に入り込み、復讐の機会をうかがいます。この映画での演技も国際的な映画評論家から好意的な評価を得ました。2007年、文学の教師を目指していた時期もあったデボラは、再びセザール賞有望若手女優賞にノミネートされ、その才能を確かなものとします。

『ある子供』と『譜めくりの女』の成功を経て、2007年にはステファン・カルポー監督の『Les fourmis rouges』やテレビ映画『Dombais et fils』といった作品で主役級の役柄を演じます。『Les fourmis rouges』では、アルデンヌ地方の小さな村で孤立し、自身のセクシュアリティに目覚めていく16歳の孤児アレックスを演じました。同年、彼女はアンジェで開催された第19回ヨーロッパ映画祭「Festival Premiers Plans d'Angers」で審査員を務めるなど、多方面で活躍の場を広げます。2008年には、ジャン＝ポール・サロメ監督の『レディ・エージェント第三帝国を滅ぼした女たち』に出演し、ソフィー・マルソーやマリー・ジランといった著名な女優たちと共演しました。

2009年、レミ・ブザンソン監督のヒューマンドラマ『Le premier jour du reste de ta vie』（日本語題：『人生の最初の日』）に出演。この作品で、青春真っただ中の若者、フルール役を演じ、ついにセザール賞有望若手女優賞を受賞します。同年にロミー・シュナイダー賞も受賞し、若手女優としての確固たる地位を確立しました。

国際的な活躍と日本での撮影

デボラ・フランソワの活躍はヨーロッパにとどまらず、国際的なプロジェクトにも参加しています。2010年1月には、フランスのオドレイ・フーシェが監督を務めるフランス・カナダ合作映画『メモリーズ・コーナー』の撮影のために日本を訪れました。この映画は、阪神・淡路大震災後の神戸を舞台にしており、デボラはフランス人ジャーナリストのアダ・セルヴィエを演じました。日本の実力派俳優である阿部寛や西島秀俊といった俳優たちとの共演も果たしています。作品は2011年度の釜山国際映画祭で上映され、2012年5月にフランスで公開されました。

デビューから数々の賞に輝き、多様な役柄に挑戦し続けているデボラ・フランソワは、現代ヨーロッパ映画を代表する女優の一人として、今後もそのキャリアを積み重ねていくことでしょう。

主な出演作品

『ある子供』 (L'Enfant, 2005)
『譜めくりの女』 (La Tourneuse de pages, 2006)
『Les fourmis rouges』 (2007)
『レディ・エージェント第三帝国を滅ぼした女たち』 (Les Femmes de l'ombre, 2008)
『人生の最初の日』 (Le Premier Jour du Reste de Ta Vie, 2008)
『メモリーズ・コーナー』 (Mémoires, Corner, 2011)

受賞歴

2006年ジョゼフ・プラトー賞（『ある子供』）受賞
2007年シュザンヌ・ビアンケッティ賞（『ある子供』）受賞
2009年セザール賞有望若手女優賞（『Le premier jour du reste de ta vie』）受賞
2009年ロミー・シュナイダー賞受賞

※他にセザール賞有望若手女優賞に複数回ノミネートされています。

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