タカサゴキララマダニ

タカサゴキララマダニは、学名を Amblyomma testudinarium といい、マダニ科キララマダニ属に分類される大型のダニの一種です。和名では「高砂綺羅々真蜱」と表記されます。このダニは、東南アジアの広範囲にわたる地域に分布しており、日本国内では主に本州の関東地方より南の温暖な地域に生息しています。比較的大柄な体を持つことが特徴です。

日本に分布する他の多くのマダニ科のダニと同様に、タカサゴキララマダニはその一生において三つの異なる宿主を必要とする「三宿主性」の生活環を送ります。これは、孵化した後の幼虫、脱皮した若虫、そしてさらに脱皮した成虫というそれぞれの発育段階で、異なる個体の脊椎動物に一時的に寄生し、吸血した後に離脱することを繰り返す生態を指します。

各発育期の宿主には傾向が見られます。成熟した成虫は、イノシシや馬、そしてヒトを含む比較的体の大きな哺乳類を主な宿主とします。これに対し、まだ発育途上である幼虫や若虫は、より小型から中型の哺乳類、鳥類、あるいは爬虫類などに寄生することが多いとされています。特に幼虫は体が小さく、自力での広範囲な移動能力に乏しいため、草木の葉の上などで集団を形成し、宿主動物が通りかかるのを待ち伏せる習性があります。この待ち伏せ行動のため、ヒトがその待機場所を不用意に通過した場合などに、一度に多数の幼虫に刺されるという事例が報告されており、注意が必要です。

タカサゴキララマダニの分布は、宿主となる野生動物の生息状況と密接に関係していることが知られています。例えば、富山県のような地域では、かつて本種の記録は非常に稀でした。しかし、近年になって野生のイノシシがその生息域を拡大し、地域に定着するようになったのに伴い、イノシシと関連の深いタカサゴキララマダニによるヒトへの刺傷事例が発生するようになりました。これは、生態系の変化がダニの分布やヒトへの影響にも及ぶことを示す典型的な例と言えます。

公衆衛生上の観点から、タカサゴキララマダニが注目されるのは、ヒトへの寄生例が多いことに加え、様々な病原体を媒介する可能性が指摘されているためです。過去には、本種に刺された後に原因不明の発熱などの症状を呈する報告がありました。こうした臨床例や研究結果から、タカサゴキララマダニが、特定の紅斑熱群に属するリケッチアや、重症熱性血小板減少症候群（SFTS）を引き起こすウイルスなどの病原体を保有し、ヒトに感染させるリスクがあるのではないかという懸念が示されています。現時点では、媒介能力についてさらなる研究が必要な側面もありますが、SFTSを含む何らかの感染症の原因となる病原体を媒介する可能性が指摘されている以上、特に自然環境下での活動時には、マダニの刺咬を防ぐための適切な対策（長袖・長ズボンの着用、虫よけ剤の使用など）を講じることが推奨されます。

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