タガメ

タガメ：水田の王者、その生態と保全

タガメは、カメムシ目コオイムシ科に属する水生昆虫です。日本最大級のカメムシであり、かつては水田の身近な存在でしたが、現在では絶滅が危惧されています。本記事では、タガメの生態、分類、保全状況について詳しく解説します。

分類と名称

タガメは、以前は Lethocerus deyrolli という学名で知られていましたが、近年の分類学的再検討により、Kirkaldyia deyrolli と改められました。和名の由来は「田にいる亀」または「田にいるカメムシ」から来ています。「ミズガッパ」や「カッパムシ」など、多くの地方名も存在します。

分布

タガメは、日本列島全域をはじめ、台湾、朝鮮半島、中国、東南アジアなどに分布します。しかし、近年は生息数が激減しており、多くの地域で絶滅危惧種に指定されています。特に北海道や沖縄県などでは、人為的な移入の可能性も指摘されています。

特徴

成虫の体長は48～65mmで、メスの方が大型です。灰褐色の体色で、鎌状の前脚は強力な捕獲脚となっており、鋭い爪で獲物を捕らえます。中脚と後脚は遊泳脚で、水中を効率的に移動します。口吻は短く鋭く、獲物に突き刺して消化液を注入し、体外消化を行います。腹端には呼吸管があり、水面に突き出して呼吸します。発達した翅を持ち、夜間に飛翔して移動します。オスは後胸部に臭腺を持ち、メスを誘引するフェロモンを分泌します。

雌雄の判別

タガメの雌雄判別は容易ではありません。一般的にメスの方が大型ですが、幼虫期の栄養状態によって個体差があるため、大きさだけでは判断できません。確実な判別には、腹部末端の亜生殖板の形状を確認する必要があります。メスの亜生殖板には小さな窪みがあります。

生態

タガメは、水草の多い止水域を好み、水田や池沼などに生息します。水深5～20cm程度の浅い水域を好む傾向があります。魚類、カエル類、水生昆虫などを捕食する肉食性です。夜行性で、昼間は水草などに隠れて休息し、夜間に活動して獲物を待ち伏せたり、繁殖行動を行います。

水温と気温

タガメの活動適温は水温23～28℃です。水温が高いほど産卵頻度や幼虫の成長速度は上がりますが、30℃を超えると溶存酸素量の減少により死亡率が高まります。気温も30℃を超えると卵の孵化率が低下します。

飛翔行動

タガメは繁殖期に夜間に長距離飛翔します。新たな生息地や越冬場所、繁殖相手を探すためです。強い正の走光性があり、街灯などに飛来することが多く、その際に死亡する個体も少なくありません。

摂食活動

タガメは肉食性で、生きた獲物を捕食します。淡水魚、カエル、水生昆虫などを捕らえ、消化液を注入して体外消化を行います。獲物の大きさに関わらず捕食しますが、飼育下では体長の半分程度の大きさの生き餌を複数与えることが推奨されます。

繁殖

タガメの繁殖期は5月下旬～7月です。メスはイネなどの茎に80～100個の卵を産み付け、オスが卵塊を保護します。オスは卵に定期的に給水し、外敵から守ります。メスの産卵後、オスは卵が孵化するまで次の繁殖行動は行いません。メスは、オスが卵の保護をしている間に、他のオスと交尾して卵を産む場合もあります。場合によっては、オスが守っている卵塊を破壊して、自分の卵を産み付けることもあります。

孵化

卵は約1～2週間で孵化します。孵化は夜間～早朝に行われ、一斉に孵化します。孵化直後の幼虫は黄色ですが、数時間で縞模様が現れます。オスは孵化後も数日間、幼虫を保護します。

幼虫

幼虫は5回の脱皮を経て成虫になります。幼虫期には同種間の共食いが激しくなります。成長には豊富な餌が必要です。脱皮は危険な過程であり、脱皮に失敗して死亡する個体も多いです。

羽化

羽化は約1ヶ月で、通常7月以降に新成虫が羽化します。羽化した年は繁殖活動は行いません。

越冬

タガメは成虫で越冬します。11月頃に冬眠を開始し、水辺の枯れ草や土の中などで越冬します。春になると活動を始めます。

寿命

野生下の寿命は通常1年ですが、飼育下では2～3年生きる場合もあります。

天敵

タガメの天敵は鳥類、魚類、外来種などです。幼虫は他の水生昆虫にも捕食されます。成虫も共食いをすることがあります。

人間との関わり

タガメは、かつては食用や薬用として利用されていました。近年はペットとして人気が高まっています。しかし、生息数の減少により、保護の必要性が高まっています。

保全状況

タガメは絶滅危惧種に指定されており、生息地の減少、農薬、外来種などが減少の大きな要因です。

保全施策と課題

タガメの保全のためには、生息環境の保全、農薬の使用制限などが重要です。無農薬・減農薬農業の推進、ため池や水田などの管理、外来種対策などが必要になります。

近縁種

タガメには、タイワンタガメ、ナンベイオオタガメなど、多くの近縁種が存在します。

人工繁殖

タガメは飼育下でも繁殖させることができますが、幼虫の共食いや飼育の難しさなど、課題も多くあります。

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