タチシノブ

タチシノブ（Onychium japonicum）

タチシノブは、シダ植物門ホウライシダ科タチシノブ属に分類される常緑性の多年草です。その名の通り、シノブに似た葉を持ち、地面から葉を立てるように生えることが特徴です。

特徴

根茎: 地中を這うように伸び、茶褐色の鱗片に覆われています。
葉: 多数の葉を出し、栄養葉と胞子葉の2種類があります。胞子葉の方がやや背が高く、よく目立ちますが、形はほとんど変わりません。栄養葉の裂片の先端がわずかに丸みを帯びる程度です。葉は全体的に無毛で、葉柄が半分近くを占めます。葉柄の基部は紫褐色を帯び、先端に向かって緑色に変化します。
葉身: 卵状披針形で、基部が幅広く、先端に向かって狭まります。3～4回羽状複葉に細かく裂け、個々の裂片は細長く、先端が尖っています。葉全体は鮮やかな緑色で、光沢があります。枝や裂片は主軸に対して小さな角度で出るため、全体として先端になびくような外観になります。
胞子嚢群: 細長く、裂片の中央に位置します。

生育環境

タチシノブは、森林や林縁の日向など、あまり深くない場所に生育します。林道脇などにも群生していることがあります。分布域は広く、本州（関東以西）、四国、九州、琉球、小笠原に加え、朝鮮南部、中国からマレーシア、インドにかけて分布しています。

名前の由来

「タチシノブ」の名前は、葉の様子がシノブに似ており、地上から葉を立てるように生えることに由来します。別名の「カンシノブ」は、常緑性であることに由来し、冬でも緑を保つ様子から「寒忍」と名付けられました（シノブは落葉性です）。

類似する植物

タチシノブ属は世界に約10種ありますが、日本にはタチシノブのみが自生しています。葉が細かく分かれるシダ植物の中には、外見が似ているものも存在します。例えば、リシリシノブ、コウザキシダ、アオガネシダ、オオバヒノキシダなどが挙げられますが、これらの種は高山や深い森林に生息するため、普段目にすることは少ないでしょう。むしろ、タチシノブと似た場所に生息するホラシノブの方が紛らわしいかもしれません。しかし、ホラシノブは裂片が幅広く、先端が丸いため区別できます。また、琉球列島には、タチシノブから名前を取ったカンシノブホラゴケというコケシノブ科の植物も存在します。これはコケシノブ科の中では比較的大型で、細かな葉を持つのが特徴です。

利害

特になし。

参考文献

岩槻邦男編『日本の野生植物　シダ』(1992)平凡社
光田重幸『しだの図鑑』(1986)保育社

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