タチソ

高槻地下倉庫「タチソ」：太平洋戦争末期の秘密地下施設

1944年11月、太平洋戦争末期の激化する空襲から重要な軍事施設を保護する目的で、大阪府高槻市大字成合の山中に、秘密裏に地下施設の建設が始まりました。これが「タチソ」です。

当初は中部軍司令部の地下壕として計画されましたが、後に川崎航空機の高槻地下工場へと転用され、三式戦闘機「飛燕」のエンジンである「Ha-140」の製造拠点となる予定でした。そのため、旋盤などの工作機械や発電機が搬入され、設置作業が進められました。1945年8月20日からの稼働を目指していましたが、終戦により未完のまま放棄されました。

「タチソ」の名称の由来

「タチソ」という名称は、陸軍が付けたコードネーム（暗号名）です。「高槻（タカツキ）地下（チカ）倉庫（ソウコ）」の頭文字から取られています。秘密裏に建設されたため、戦後の記録や関係者の証言では、呼称にばらつきが見られます。しかし、地元の保存運動団体による活動によって「タチソ」というコードネーム、およびその由来である「高槻地下倉庫」という呼称が広く知られるようになりました。

建設場所と現状

檜尾川を挟んで東西に広がる丘の中腹で掘削が行われました。しかし戦後、東側のトンネル群は採石場として開発されたため、大部分が開削されたり、埋没して消滅しました。現在残っているのは西側のトンネル群で、十数本の坑道が現存しています。

成合地区が選ばれた理由

成合地区が建設場所として選ばれたのは、比較的過疎地であったことが主な理由です。空襲の激化に伴い、重要施設の地下移転計画が推進される中、人目に付きにくく、かつ地質的に安定した成合地区は、秘密裏の地下施設建設に適した場所と判断されたと考えられます。

建設の経緯と目的

建設は、空襲の激化という喫緊の状況下で行われました。当初の中部軍司令部地下壕としての計画は、戦争継続を前提とした重要な軍事拠点の確保という目的を持っていました。その後、川崎航空機の高槻地下工場への転用は、戦闘機生産能力の維持・向上を目的としていたと推測されます。地下工場化によって、空襲による被害を軽減し、安定した生産体制を確保しようとしたと考えられます。

終戦後の状況と保存運動

終戦後、施設は放棄されました。その後、土地建物の管理は大蔵省理財局が引き継ぎました。戦後長く放置された「タチソ」ですが、地元高槻市の市民団体による長年の保存運動により、その歴史的意義が再認識され、現在では戦争遺跡として貴重な存在となっています。この保存運動は、戦争の記憶を風化させない、そして二度と戦争を起こさないという強い願いから始まりました。

現状と今後の課題

現在、残存する西側の坑道群は、一部が一般公開されています。しかし、老朽化や自然災害による崩落の危険性も存在するため、保存と公開の両立は大きな課題となっています。今後も、歴史的遺産としての価値を保ちながら、安全に公開していくための取り組みが重要です。

資料

記残会1981　戦争の記録を残す高槻市民の会事務局編『戦争の記録を残すたかつき市民の会 資料集No.1』
記残会1982　戦争の記録を残す高槻市民の会事務局編『戦争の傷跡 地下軍事工場の記録』
宇津木秀甫「幻の「タチソ」をさぐる」
「米国戦略爆撃調査団報告書」和訳
記残会1984　戦争の記録を残す高槻市民の会事務局編『わが街たかつきの戦争の記録 高槻の空襲・続地下軍事工場』
記残会1999　ガイドブック高槻「タチソ」編 編纂委員会編『朝鮮人強制連行・強制労働ガイドブック 高槻「タチソ」編』
タ保会1994　高槻タチソ戦跡保存の会編『タチソ物語 高槻地下倉庫 敗戦前夜高槻における朝鮮人強制労働を見る』
タ保会2015　高槻「タチソ」戦跡保存の会編『消えていく戦争 70年目のタチソ』

これらの資料は、タチソの歴史と現状を理解する上で重要な情報源となります。

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