タック・ルール・ゲーム

「タック・ルール・ゲーム」とは、2002年 1月19日にマサチューセッツ州フォックスボロで行われたNFLの2001年シーズンAFCディビジョナル・プレーオフ、ニューイングランド・ペイトリオッツ対オークランド・レイダース戦を指す通称です。この試合は、記録的な豪雪の中で開催され、その後のペイトリオッツの栄光の時代の幕開けとなった一方で、ある論議を呼んだ判定によって歴史に刻まれました。「スノー・ボウル」や「スノー・ジョブ」とも呼ばれます。

激しい雪が降りしきる悪条件のもと、両チームは滑るフィールドに苦慮しました。試合は序盤、レイダースがタッチダウンパスを決めるなどリードを奪います。一方、ホームのペイトリオッツは地の利を活かせず、このシーズンから先発QBとなった2年目のトム・ブレイディは、キャリア初のプレーオフという経験不足に加え、悪天候とレイダースの激しいディフェンスに阻まれました。前半を終え、レイダースが13対3とリードを広げ、第4クォーターを迎えます。

劣勢のペイトリオッツでしたが、後半に入るとブレイディを中心としたオフェンスが徐々に機能し始めます。試合時間残り12分29秒、自陣33ヤードからのドライブでは、ブレイディが9回連続でパスを成功させ敵陣深くまで攻め込みます。最後はQBスクランブルで自身がタッチダウンを決め、点差を13対10と3点に縮めました。

その後両チームはパントを蹴り合い、レイダースは残り2分24秒でファーストダウンを獲得すれば勝利が濃厚となる場面を迎えますが、ペイトリオッツディフェンスに阻まれ、パントに終わります。タイムアウトを全て使い切ったペイトリオッツは、残り2分6秒、自陣46ヤードから最後のドライブを開始します。そして、このドライブ中に、試合の行方を決定づけるプレーが発生しました。

論議を呼んだ判定とタック・ルール

問題のプレーは、ペイトリオッツQBトム・ブレイディがレイダースのチャールズ・ウッドソンにサックされ、ボールを失った場面です。レイダース側がボールをリカバーしたため、通常のルールであればこれはファンブルによるターンオーバーとなり、レイダースの勝利がほぼ確定する状況でした。

しかし、審判団はビデオ判定を行います。ここで適用されたのが、NFLルールブックに定められた「タック・ルール」と呼ばれるものです。このルールは、QBがパスを投げようとして腕を前方に動かし始めた後、パスを投げずにボールを体に引き戻そうとする（タックする）過程でボールを失った場合、それはファンブルではなくパス不成功と見なす、というものです。従来の解釈では、パス動作中にボールを落とすとパス不成功、それ以外はファンブルでしたが、「タック・ルール」はこのパス動作中の定義を拡張したものでした。

ビデオ判定の結果、審判のウォルト・コールマンは「QBの腕は前方に動いていた。これはパス不成功である」と判定を覆します。ペイトリオッツに再び攻撃権が戻されたのです。スタジアムは歓喜に沸き、レイダース陣営は激しく抗議しましたが、判定は覆りませんでした。

試合の終結とその後

「タック・ルール」による判定変更後、ペイトリオッツは攻撃を続け、キッカーのアダム・ビナティエリが豪雪の中で45ヤードの同点フィールドゴールを成功させ、試合はオーバータイムに突入します。オーバータイムでは、ペイトリオッツが攻撃権を得ると、着実に前進。敵陣深くまで攻め込んだ後、4thダウンというギャンブルの局面でトム・ブレイディがパスを成功させファーストダウンを獲得。最後は再びビナティエリが23ヤードの決勝フィールドゴールを決め、ペイトリオッツが16対13で劇的な勝利を収めました。

この勝利によりAFCチャンピオンシップゲーム進出を決めたペイトリオッツは、その後スーパーボウルを制覇。以降、チームは立て続けにスーパーボウルを制し、NFLを代表する強豪へと変貌を遂げ、黄金期を築き上げました。そのため、「タック・ルール・ゲーム」はペイトリオッツの歴史における重要な転換点として語られることが多くあります。

敗れたレイダースは、この判定によって勝利を奪われた形となり、大きな無念を抱えることになりました。「タック・ルール」自体は、この試合以前から一部で批判がありましたが、この判定を機にその存在と解釈について全国的な論争が巻き起こりました。NFLは最終的に判定を擁護しましたが、ルールに対する疑念の声は残り、メディアの議論を呼んだ判定ランキングなどでも常に上位に挙げられることとなります。この試合のレフェリーを務めたウォルト・コールマンは、その後安全上の理由からレイダースの試合を担当しなくなったと報じられています。

興味深いことに、多くのペイトリオッツファンにとって、この試合での勝利は1976年のプレーオフでレイダースに敗れた際の論議を呼んだ判定（ラフィング・ザ・パサー）に対する「お返し」と見なされました。しかし、当時のペイトリオッツQBスティーブ・グローガンは、当時の無念が晴れることはないと語り、複雑な心境を吐露しています。

また、この試合はペイトリオッツがそれまで本拠地としていたフォックスボロ・スタジアムでの最後の試合となりました。現在、スタジアム跡地の駐車場には、アダム・ビナティエリが同点フィールドゴールを成功させた位置を示す記念のラインが引かれています。ビナティエリ自身も、スーパーボウルでの決勝FGよりも、この試合でのキックの方がプレッシャーが大きかったと後に語っています。

「タック・ルール・ゲーム」は、一つの判定が試合結果、ひいてはリーグの勢力図をも変えうることを示した、NFL史に残る象徴的な一戦として記憶されています。

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