タツィオ・ヌヴォラーリ

タツィオ・ヌヴォラーリ：イタリアが生んだ伝説のレーサー

タツィオ・ジョルジョ・ヌヴォラーリ(1892年11月16日-1953年8月11日)。その名は、イタリアのみならず世界中のモータースポーツファンに語り継がれる伝説のレーサーとして知られています。故郷マントヴァに因んで「空飛ぶマントヴァ人」と呼ばれた彼は、類まれなドライビングテクニックと、危険を厭わない勇敢な走りで数々の栄光を掴みました。

栄光のキャリア

ヌヴォラーリは、バイクレーサーだった父親と叔父の影響を受け、幼少期からモータースポーツに親しんでいました。1915年にバイクレースのライセンスを取得しますが、第一次世界大戦により兵役へ。復員後、再びレース界へ復帰し、1920年からバイクレース、1921年から四輪レースに参加。華々しい活躍を見せ始めます。

特に1925年にはビアンキ350ccマシンでイタリアグランプリを3連覇するなど、二輪レースでチャンピオンの座に輝き、イタリア国内で広く知られる存在となりました。その後、四輪レースへと本格的に転向。スクーデリア・ヌヴォラーリを設立するものの、資金難により解散。その後はアルファロメオ、アウトウニオンといった名門チームに所属し、タルガ・フローリオ、ミッレミリア、コッパ・チアーノといったイタリア国内主要レースはもちろん、ヨーロッパグランプリやル・マン24時間レースなど数多くの国際レースで優勝を収め、国民的英雄となりました。

1935年ドイツグランプリ：奇跡の逆転劇

ヌヴォラーリの数々の偉業の中でも、1935年のニュルブルクリンクで行われたドイツグランプリでの勝利は、モータースポーツ史上に残る伝説として語り継がれています。当時、ドイツはメルセデス・ベンツとアウトウニオンを強力に支援し、イタリアのアルファロメオとの激しい争いを繰り広げていました。

このレース、アルファロメオはドイツ勢に圧倒的な性能差をつけられ、敗北続きでした。ヌヴォラーリはアルファロメオの性能に不満を抱き、一時チームを離れ、アウトウニオンへの移籍を試みますが、ライバルのヴァルツィの反対により実現しませんでした。ムッソリーニの働きかけでアルファロメオに復帰したヌヴォラーリは、性能面で劣るマシンを駆りながら、雨のニュルブルクリンクを駆け抜けます。

燃料ポンプの故障によりピットインを余儀なくされ順位を大きく落としましたが、驚異的な追い上げを見せ、最終的にトップを逆転し勝利を掴みました。この劇的な勝利は、30万人の観衆を静寂に包み込み、その後、英雄を讃える大歓声に包まれました。ナチス高官の怒りを買ったという逸話も残されています。

数々の伝説

ヌヴォラーリのキャリアには、数々の伝説が語り継がれています。初めての運転が父親の車をこっそり運転したこと、重傷を負いながらもレースに出場したエピソード、ジョークを飛ばしながらも、常軌を逸したドライビングテクニックの数々。マシンのトラブル、悪天候、性能差といった困難な状況ほど、ヌヴォラーリの実力は発揮されました。

彼は、マシンの性能をはるかに超えるタイムを叩き出し、「神懸かり的」「悪魔的」と評されるほどでした。その小柄な体格と、独特の風貌(「馬面」「皮面」と呼ばれた)、そしてレース時に身に着けていた黄色のシャツと金色の亀のブローチは、彼のトレードマークとなりました。

グラン・プレミオ・ヌヴォラーリ

1953年、ヌヴォラーリは脳梗塞により60歳でこの世を去りました。彼の死後、彼の功績を称え、ミッレミリアのルートが変更。マントヴァを通過するルート区間で最速タイムを記録したドライバーに「グラン・プレミオ・ヌヴォラーリ」が授与されました。この賞は、1957年のミッレミリア廃止まで続けられ、1991年にはヒストリックカーレースとして復活しました。

ヌヴォラーリの遺産

タツィオ・ヌヴォラーリは、類まれな才能と、危険を顧みない勇気、そして類まれなテクニックを持つ伝説的なレーサーでした。彼の物語は、後世のレーサーたちに大きな影響を与え続け、モータースポーツ史に燦然と輝く一ページを刻んでいます。彼の伝説は、これからも語り継がれていくことでしょう。

もう一度検索