タリウム少女の毒殺日記

『タリウム少女の毒殺日記』（タリウムしょうじょのどくさつにっき）は、2012年に製作され、翌2013年 7月6日に劇場公開された日本の映画作品です。本作は、2005年に実際に発生し、社会に衝撃を与えたある事件、すなわち女子高校生が自身の母親に対して毒物タリウムを少量ずつ投与し、毒殺を図ったとされる未遂事件を題材としています。この痛ましい事件を基に、監督はフィクションとして少女の内面世界とその行動の軌跡を描き出しました。

本作は公開に先立ち、国内外の映画祭で注目を集めました。特に、第42回ロッテルダム国際映画祭では正式出品され、その異様なテーマと表現方法が大きな反響を呼びました。その後、日本国内においてもその価値が認められ、第25回東京国際映画祭の「日本映画・ある視点」部門に出品。ここで見事、部門の作品賞を受賞するという栄誉に輝きました。なお、東京国際映画祭に出品された際のタイトルは、『GFP BUNNY─タリウム少女のプログラム─』という、より実験的な響きを持つ名称が用いられていました。

あらすじ

物語の主人公は、「タリウム少女」と呼ばれる一人の女子高校生です。彼女は周囲から見ればどこにでもいるような普通の学生ですが、その内面には科学、特に生命に対する強い、そして歪んだ興味を抱いています。彼女は自室で、昆虫やハムスター、金魚といった小動物を対象に様々な観察や解剖実験を行い、その様子をビデオに撮影。編集した映像を動画投稿サイトにアップロードすることで、自己の世界を表現し、匿名での承認欲求を満たしていました。

しかし、彼女の観察対象は次第にエスカレートしていきます。次に彼女が目をつけたのは、より複雑で予測不能な存在――自身の母親でした。少女は、入手したタリウムを母親の日常の飲食物に密かに混入させるという、恐るべき実験を開始します。そして、母親の身体が毒によって徐々に衰弱していく過程を、冷静沈着に、時には嬉々として観察し、その変化を仔細に記録していくのです。この行為は、もはや単なる科学的探究とは言えず、人間の尊厳を無視した極めて倒錯的な行動です。映画は、少女の冷徹な視点を通して、毒が静かに、しかし確実に母親の生命を蝕んでいく様子と、それに対する少女の反応を描き出し、観る者に倫理的な問いを投げかけ、強烈な不快感と同時に根源的な恐怖を呼び起こします。母親の苦しみと、それを無感情に記録する少女の対比が、物語の核となっています。

キャスト

本作を彩るのは、実力派の俳優陣です。特異な主人公である「タリウム少女」を演じるのは、倉持由香。難解な役どころを繊細かつ大胆に演じました。毒の標的となり、徐々に弱っていく母親役には渡辺真起子。その迫真の演技は観る者の心を締め付けます。その他、教師役として古舘寛治、謎めいた身体改造アーティスト役でTakahashi、そして物語に関わる亜明日クン役として川崎流空、その母親役として朝岡実嶺が出演しています。また、主人公の内面を声で表現する「少女の声」を種田梨沙が担当し、作品に深みを与えています。

テーマと評価

『タリウム少女の毒殺日記』は、実際の猟奇的な事件をモチーフとしていることから、公開当初から倫理的な観点からの議論を呼びました。しかし、本作は単なる事件の再現やセンセーショナリズムに走るのではなく、事件を起こしたとされる少女の深層心理や、現代社会が抱える闇を鋭く抉り出すことに焦点を当てています。科学への偏執的な好奇心、インターネットを介した歪んだコミュニケーションと承認欲求、家庭内のコミュニケーション不全、そして生命倫理の崩壊といった、複数の深刻なテーマが内包されています。監督は、主人公の「観察者」としての視点を徹底的に描くことで、観客に事件そのものの是非を超えた、現代社会における孤独や疎外感、そして倫理観の揺らぎについて深く思考することを促します。その表現方法には賛否両論あるものの、国内外の映画祭で評価されたことからもわかるように、問題作としてだけでなく、現代を映し出す鏡として、映画史において無視できない存在感を放つ作品と言えるでしょう。

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