タル (リー・モーガンのアルバム)

Taru - リー・モーガン

『タル』（Taru）は、名門ブルーノート・レコードから1980年にリリースされた、ジャズ・トランペットの巨匠、リー・モーガンによるスタジオ録音作品です。このアルバムがユニークなのは、録音自体は1968年2月15日に行われていたにもかかわらず、発表まで10年以上もの歳月を要した点にあります。これは、ブルーノートが後年展開した未発表音源集シリーズ「Blue Note Classic LT」の一環として日の目を見たもので、カタログ番号はLT-1031が与えられました。

本作の大きな特徴の一つは、著名なギタリストであるジョージ・ベンソンが参加していることです。彼は当時、ハンク・モブレーやラリー・ヤングといったブルーノートの他のアーティストの録音にもサイドマンとして名を連ねていましたが、リー・モーガンのリーダー・アルバムにギタリストとして参加したのは、この『タル』が唯一の例となります。モーガンのトランペットに加え、ベンソンのギターが加わることで、サウンドに独特の彩りが添えられています。

このセッションに参加したミュージシャンは以下の通りです。

リー・モーガン - トランペット
ベニー・モウピン - テナー・サクソフォーン
ジョージ・ベンソン - ギター
ジョン・ヒックス - ピアノ
レジー・ワークマン - ベース
ビリー・ヒギンス - ドラムス

収録されている楽曲は全6曲で、うち5曲はリー・モーガン自身が作曲したオリジナルです。残りの1曲はカル・マッセイによるタイトル曲「タル」となっています。ジョン・ヒックス作曲の「アヴォッチャ・ワン」もリストに含まれていますが、これはジョン・ヒックス名義とされています。

収録曲：

1. アヴォッチャ・ワン - "Avotcja One" (John Hicks) - 6:44
2. ヘッシェン - "Haeschen" (Lee Morgan) - 6:13
3. ディー・ロード - "Dee Lawd" (Lee Morgan) - 5:54
4. ゲット・ユアセルフ・トゥゲザー - "Get Yourself Together" (Lee Morgan) - 6:25
5. タル - "Taru, What's Wrong with You?" (Cal Massey) - 5:19
6. デュレム - "Durem" (Lee Morgan) - 7:28

音楽評論家のスコット・ヤナウは、オールミュージックでこのアルバムに5段階評価中4点を付与し、本作がリー・モーガンというハード・バップの達人が、よりモーダルなアプローチや、来るべきフュージョンへの萌芽をも感じさせる音楽性へと歩みを進めていた時期に制作された作品であるとの見解を示しています。また、2000年にAll About Jazzで批評を寄せたジム・サンテラは、収録曲の音楽的な多様性に注目し、力強い正統派ハード・バップのアレンジが施された楽曲が2曲、落ち着いた穏やかなバラードが2曲、そしてゴスペル色の強い楽曲が残りの2曲という、バラエティ豊かな構成であると評価しました。このことから、『タル』は単なる未発表音源の放出ではなく、当時のモーガンの創造性が広がりを見せていた様子を捉えた、彼のキャリアにおいて重要な意味を持つ作品であったと言えるでしょう。

1968年という時期は、ジャズ界全体が大きな変化を遂げつつあった時代であり、リー・モーガンもまた、その流れの中で自身の音楽を模索していたことがうかがえます。本作は、長らく眠っていた音源でありながら、その音楽的な内容と時代の証言としての価値から、遅れてリリースされた後も多くのジャズファンにとって貴重な一枚となっています。

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