タンツテアター

タンツテアター (Tanztheater)

タンツテアターは、20世紀初頭、特に1920年代のドイツ・ワイマール共和国時代とウィーンにおける表現主義ダンス運動を源流とする、独自の舞台芸術形式です。

「タンツテアター」という言葉自体は、1927年頃から使われ始めたとされています。これは、1917年以降、中央ヨーロッパで発展した、人間の内面や感情を身体表現によって探求する新しいダンスの潮流、「表現主義ダンス（Ausdruckstanz）」の中から生まれました。その中でも、特に演劇的な要素や社会的なテーマ性を強く取り入れた特定のスタイルを指し示す言葉として定着しました。

この初期タンツテアターの主要な担い手として挙げられるのは、マリー・ヴィグマン、クルト・ヨース、ルドルフ・ラバンといった、表現主義ダンスを代表する振付家たちです。彼らは、伝統的なバレエの枠にとらわれず、身体の自然な動きや重力を重視し、内的な衝動に基づいた表現を追求しました。特にクルト・ヨースは、政治的・社会的なメッセージをダンスで表現する作品を手がけ、後のタンツテアターの方向性を示唆しました。

タンツテアターの形式や概念の発展には、同時代の演劇界の革新者たち、例えば劇作家ベルトルト・ブレヒトや演出家マックス・ラインハルトからの影響、そしてワイマール共和国という激動の時代の文化的・社会的状況が深く関わっています。この時代は、第一次世界大戦の敗戦とその後の混乱を経て、芸術や文化が既成概念を問い直し、新たな表現を模索した時期でした。

タンツテアターの最大の特徴は、単にダンスとドラマティックな要素を組み合わせた「ブレンド」ではない点にあります。それは、身体表現と演劇的手法が有機的に結合し、物語性や感情、社会的な批評性を、言葉だけでなく身体全体を通して表現しようとする試みです。

一部の研究者（例：Birringer、Schlicher）は、第二次世界大戦後のドイツが経験した特定の芸術的および歴史的文脈が、タンツテアターの発展、特に1980年代におけるその用語の再評価に影響を与えたと指摘しています。

1980年代になると、「タンツテアター」という言葉は再び注目を集めるようになります。この時期に使われた文脈は、主にクルト・ヨースの弟子であったピナ・バウシュやラインヒルド・ホフマンといったドイツの振付家、そしてオーストリアのヨハン・クレスニクらの作品を批評する際に用いられました。ピナ・バウシュのヴッパタール舞踊団による作品群は、日常生活の断片、人間の不条理、感情の生々しさを、ダンス、演劇、歌、身体言語を駆使して表現し、世界的に大きな影響を与えました。彼女の芸術は、ヴィグマンの弟子であったスザンヌ・リンケらの作品と共に、現代における「タンツテアター」のイメージを強く形作ることになりました。

このように、タンツテアターは、その誕生から現代に至るまで、ドイツを中心とした中央ヨーロッパの歴史、社会、文化と深く結びつきながら発展してきた、単なるダンスのスタイルにとどまらない、複雑で多層的な舞台芸術形式と言えます。それは、人間の存在や社会に対する問いかけを、身体と演劇性を融合させた独自の言語で表現し続ける試みであり続けています。

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