タンピコ事件

タンピコ事件：米墨関係悪化の引き金

タンピコ事件は、メキシコ革命中の1914年4月9日、タマウリパス州タンピコで発生しました。ビクトリアーノ・ウエルタ将軍に忠誠を誓うメキシコ軍兵士が、アメリカ軍の水兵を拘束したことが発端となり、アメリカとメキシコの関係は著しく悪化し、その後のアメリカ軍によるベラクルス占領へとつながりました。

事件の背景：メキシコ革命の混乱とアメリカの権益

当時のメキシコは、革命の真っ只中にありました。事実上の国家元首であったビクトリアーノ・ウエルタは、南部を支配するエミリアーノ・サパタ、そして北部で護憲軍を率いるベヌスティアーノ・カランサとの間で権力闘争を繰り広げていました。1914年3月26日には、カランサの護憲軍がタンピコからわずか15kmの地点まで進出していました。

タンピコは当時、アメリカ企業による巨額の投資によって製油業が発展し、多くのアメリカ市民が居住していました。ヘンリー・T・メイヨー少将率いるアメリカ艦隊は、アメリカ国民とその資産を保護するために同地域に展開していました。

タンピコは護憲軍によって包囲されていましたが、アメリカ軍とウエルタの連邦守備隊との関係は比較的平穏でした。アメリカ艦隊の旗艦ドルフィンは、湾での活動のために改修されており、1914年4月2日には、1867年のプエブラ占領を記念してメキシコ軍に対し祝砲を3度行っています。

事件の発生：燃料調達中の米兵拘束

事件当日、アメリカ海軍は伝令や民間人の救助のために頻繁にボートを使用していましたが、燃料が不足していました。ドルフィン艦長は4月9日、イトゥルビデ橋の防衛陣地に近い倉庫から燃料油を調達するよう命じました。橋のメキシコ軍防衛部隊は、アメリカ軍の動きを警戒していました。

ドルフィンから水兵9名が星条旗を掲げたボートで倉庫に向かいました。7名が燃料缶を運び、2名がボートに残りました。その様子を見たメキシコ軍兵士が駆けつけ、アメリカ兵と対峙しました。言葉が通じない中、アメリカ兵は銃を向けられ、メキシコ兵はボートに残ったアメリカ兵も拘束し、連隊本部に連行しました。

事件の影響：アメリカの報復とベラクルス占領

アメリカ海軍大西洋艦隊司令官ヘンリー・T・メイヨー少将は、ウエルタ政府に対し公式な謝罪を要求しました。タンピコ地区の司令官は謝罪文書を送りましたが、星条旗を掲揚して21発の祝砲を発射するという要求には応じませんでした。これに対し、ウッドロウ・ウィルソン大統領は議会に武力行使の許可を求め、2日後には承認され、ベラクルス占領が開始されました。

その後、アメリカ合衆国は紛争調停を「ABC強国」（アルゼンチン、ブラジル、チリ）に依頼し、ナイアガラフォールズ平和会議が開かれることとなりました。

タンピコ事件は、メキシコ革命の混乱の中で発生した偶発的な事件でしたが、アメリカの権益保護の意識と、メキシコの国内情勢が複雑に絡み合い、両国関係を大きく悪化させる結果となりました。

Wilson "exasperated by... the latest in a line of Mexican incidents"
Wilson's address to Congress (20 April 1914))

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