タンムーズ

タンムズ：古代メソポタミアの愛と再生の神

タンムズ（またはドゥムジ）は、シュメール・アッカド神話に登場する神であり、豊穣、牧畜、そして死と再生を司る神として知られています。イナンナ（イシュタル）の夫として、愛と悲劇の物語が数多く語り継がれています。

起源と名前

タンムズは、シュメールの牧羊神ドゥムジに起源を持ちます。ドゥムジは「忠実な息子」という意味を持ち、その名前はアッカド語のタンムズへと変化しました。さらに、フェニキアではアドニスとして知られ、ギリシア神話にも取り込まれるなど、その影響は広範囲に及びました。

服喪の儀式

古代バビロニアでは、タンムズを讃えるために「タンムズの月」が設けられました。この習慣は、現代のユダヤ暦にも受け継がれています。古代中近東やエーゲ海沿岸地域では、夏至の時期にタンムズの死を悼む服喪の儀式が行われていました。これは、昼間の時間の減少と夏の炎熱が衰え始める時期を、タンムズの「葬式」として捉えたもので、エルサレム神殿でも行われていたことが記録されています。

神話

シュメール王名表には、ドゥムジという名の王が二人登場します。一人は洪水の前にバド・ティビラを治めていた羊飼いの王、もう一人はウルク第一王朝の漁師の王です。イナンナとドゥムジの恋愛に関する牧歌的な詩や歌が数多く残されており、二人の関係はエロティックかつ率直に描かれています。

イナンナの冥界下り

イナンナが冥界へ下る物語は、タンムズの運命と深く結びついています。イナンナは冥界の女王エレシュキガルの支配する地下世界クルへ向かいますが、冥界の門を通過するたびに装飾品を奪われ、最終的には全裸にされます。エレシュキガルの王座に座ろうとしたイナンナは、冥界の神々の裁きを受け、死体と化してしまいます。

イナンナの復活には、エンキ神の助けが必要です。エンキはクルに従者を送り込み、イナンナに生命の食物と水を与えて蘇らせますが、「魂の保存則」により、身代わりが必要となります。イナンナは、冥界で王座に座るドゥムジが彼女の不在を喜んでいるように見えたため、彼を身代わりとして死神に引き渡します。

ゲシュティンアンナの献身

ドゥムジの姉であるゲシュティンアンナは、ドゥムジを匿おうとしますが、死神に捕らえられてしまいます。その後、イナンナはドゥムジを憐れみ、一年のうち半年をゲシュティンアンナがドゥムジの代わりに冥界で過ごすことで、ドゥムジを地上に戻すことを決めます。

この神話は、タンムズが地上から姿を消すことと季節の変化を結びつけ、彼を植物の周期、つまり死と再生の神として位置づけました。

古い解釈と新しい発見

かつては、イシュタルの冥界下りはタンムズの死後であり、タンムズを救うためだと考えられていました。しかし、1963年に復元された新しい文書により、物語の解釈は大きく変わりました。イナンナとドゥムジの求婚に関する新たな発見もあり、二人の関係に対する理解が深まりました。

タンムズは、古代メソポタミアの人々にとって、豊穣と愛、そして死と再生を象徴する重要な神でした。その神話は、現代においても多くの人々に影響を与え続けています。

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