ダイアウルフ

ダイアウルフ：更新世に君臨した巨大なオオカミ

ダイアウルフ（Aenocyon dirus）は、約30万年前から1万年前のアメリカ大陸に生息していた、イヌ科最大の絶滅種です。その学名が示すように「恐ろしいオオカミ」は、かつて北米大陸の生態系において重要な役割を果たしていました。

分類：イヌ属からAenocyon属へ

かつてはタイリクオオカミとの類似性からイヌ属（Canis）に分類されていましたが、2021年のゲノム解析により、セグロジャッカルやヨコスジジャッカルとの関連性が示唆されました。この結果を受け、ダイアウルフは1918年に提唱された Aenocyon 属に再分類されることとなりました。これは、ダイアウルフが約570万年前にタイリクオオカミの祖先から分岐した、独自の進化を遂げた系統であることを意味します。

特徴：巨体と強力な顎

ダイアウルフは、北アメリカ大陸南部から南アメリカ大陸北部にかけての広範囲に分布し、草原から山林まで多様な環境に適応していました。近年では中国北東部からの産出例も報告されています。

その体格は、頭胴長約125cm、尾長約60cm、体高約80cmと、現生のタイリクオオカミの大型亜種に匹敵します。しかし、より頑丈な体つきをしており、平均体重は現生オオカミよりも重かったと推定されています。幅広の頭部、発達した咬筋、そしてタイリクオオカミよりも大きな歯は、ダイアウルフが強力な咬合力を持っていたことを示しています。

生態：群れで狩りをするハンター

ダイアウルフは群れを形成し、協力して獲物を狩っていたと考えられています。ラ・ブレア・タールピットから多数の化石が発見されていることから、タールに足を取られた草食動物を सामूहिकで襲っていたことが示唆されています。また、スミロドンの食べ残しを漁ることもあったようです。

頭蓋骨や歯の形態から、骨を噛み砕くことは得意ではなかったと考えられています。また、性的二形が少ないことから、タイリクオオカミのように一夫一妻制であった可能性も指摘されています。

絶滅：氷河期の終焉とともに

ダイアウルフは、最終氷期後に絶滅したと考えられています。最も新しい化石は約9440年前のもので、ミズーリ州で発見されました。絶滅の要因としては、大型草食獣の減少、気候変動、ヒトとの競合などが考えられていますが、正確な原因は未だ不明です。

遺伝子工学による「復活」？

2025年、アメリカのColossal Biosciences社は、遺伝子操作されたオオカミの仔を誕生させ、「ダイアウルフの復活」として話題を集めました。タイリクオオカミに14の遺伝子変異を導入することで、白い毛皮、大きな体、強靭な肩、広い頭、大きな歯と顎など、ダイアウルフに似た特徴を付与することに成功したとされています。

しかし、これは厳密には絶滅したダイアウルフのクローンではありません。あくまで、遺伝子編集によってダイアウルフの特徴を部分的に再現したに過ぎません。それでも、この試みは遺伝子工学の可能性を示すものとして、大きな注目を集めています。

更新世オオカミ：日本のオオカミとの関連性

シベリアに生息していたタイリクオオカミの系統である更新世オオカミは、ダイアウルフとは異なる系統です。日本列島で発見された大型オオカミの化石は、この系統に属すると考えられています。

ダイアウルフは、その独特な進化の歴史と絶滅の謎、そして現代科学による「復活」の試みを通して、私たちに太古の地球と生命の多様性について深く考えさせてくれる存在です。

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