ダイポールモード現象

インド洋ダイポールモード現象（IOD）とは？

インド洋ダイポールモード現象（IOD、Indian Ocean Dipole）は、インド洋熱帯域において、初夏から晩秋にかけて海水温が東部で低下し、西部で上昇する現象です。この海水温の東西差に伴い、大気循環や降水パターンが変化し、エルニーニョ現象と同様に世界的な気候に影響を及ぼします。特に、アジアモンスーンへの影響が大きく、近年その重要性が注目されています。IODは、インド洋ダイポール、ダイポール現象などとも呼ばれます。

IODの発見と特徴

IODは1999年、海洋研究開発機構の研究者らによって発見されました。太平洋のエルニーニョ現象と類似した現象ですが、海水温の分布パターンは東西逆です。エルニーニョ現象とは異なり、東部インド洋における南東貿易[[風]]の強弱がIODの発生に大きく関わっています。また、インド洋の温度躍層の深さも発生のしやすさに影響することが知られています。IODはエルニーニョ現象とは独立して発生することも、エルニーニョ現象を誘発することもあります。通常は連続して発生することは少ないですが、例外的に数年連続で発生した事例もあります。

IODの発生メカニズム

IODの発生メカニズムは、南東貿易[[風]]の変化に起因します。

正のダイポールモード: 南東貿易[[風]]が強まると、東部インド洋の高温の海水が西部へ移動します。一方、東部では深層からの湧昇や海面からの蒸発が活発になるため海水温が低下し、東西の海水温差が大きくなります。
負のダイポールモード: 南東貿易[[風]]が弱まると、東部インド洋への海水の移動が滞り、高温の海水が東部に留まります。これにより、東部の海水温は上昇し、対流活動が活発化します。西部の海水温は低下します。

IODの影響

正のダイポールモードが発生すると、インド洋西部の東アフリカでは海水温の上昇による蒸発量増加で降水量が増加します。一方、インド洋東部のインドネシアでは蒸発量が抑制され、降水量が減少します。これらの変化は、インドから日本にかけてのモンスーンアジアの気象に大きな影響を与え、異常気象を引き起こします。

テレコネクション（遠隔相関）を通して、IODはアジア各地の気候に影響を与えます。フィリピンから中国南部、インドシナ半島からインド北部では降水量が増加する一方、日本を含む極東地域では降水量が減少して猛暑となる傾向があります。この現象は、太平洋・日本パターン（PJ）と呼ばれるテレコネクション機構によって説明されます。過去の日本の猛暑の多くは、IODの影響を受けたものと考えられています。

さらに、モンスーン-砂漠機構を通じて、地中海沿岸諸国の猛暑とも密接な関係があることが明らかになってきました。この猛暑は北欧からの冷涼な風を呼び込み、大気を不安定化させて低気圧を発生させます。発生した大気擾乱はアジアンジェットを伝わって極東域に集中し、高気圧を形成することで日本付近の猛暑の一因となると考えられています。

まとめ

IODはエルニーニョ現象と並んで、世界的な気候変動に影響を与える重要な気象現象です。その発生メカニズムや影響範囲の解明は、異常気象予測の精度向上に不可欠であり、今後の研究が期待されます。 IODの予測精度の向上は、農業や防災など、社会経済活動への影響軽減に繋がります。継続的な観測と研究により、より詳細な理解と予測技術の開発が求められています。

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