ダイムノヴェル

ダイムノヴェル：アメリカ大衆小説の原点

ダイムノヴェルとは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてアメリカで出版された、安価な大衆向け小説の総称です。1860年にビードル社が刊行した10セント（1ダイム）の小説シリーズがヒットし、同様のスタイルで多くの出版社から様々なシリーズが登場しました。ダイムノヴェルは、大衆文化の発展において重要な役割を果たし、後のペーパーバック、漫画、テレビ番組や映画にも影響を与えました。

ダイムノヴェルの歴史

ダイムノヴェルの起源は、1830年代の「ストーリー・ペーパー」と呼ばれる週刊物語新聞に遡ります。1860年、ビードル社が「ビードルズダイムノヴェル」を創刊し、これがダイムノヴェルの代名詞となりました。最初の作品は、アン・S・スティーヴンズの『マラエスカ　白人ハンターのインディアン妻』で、数ヶ月で6万5千部を売り上げました。

初期のダイムノヴェルは、約6.5×4.25インチのサイズで100ページ程度でした。当初は挿絵のない鮭色の紙カバーでしたが、後に木版画によるイラストが表紙に付けられました。ビードル社のシリーズは計321冊発行され、不気味で奇妙な物語やメロドラマ風の二重タイトルが特徴で、1920年代末まで使われました。

ダイムノヴェルの人気が高まるにつれて、オリジナルストーリーへの需要が高まりました。作品はカバーを変えて何度も再刊され、他の出版社からも出版されました。南北戦争前後の時期には、識字率の向上に伴い、若い労働者階級の読者に特に人気となりました。戦争終結後には、ジョージ・マンローやロバート・デウィットなど多くの競合が現れました。

ダイムノヴェルは、その安価さとセンセーショナルな内容から、批評家からは軽蔑されましたが、大衆には広く受け入れられました。ダイムノヴェルの名前は、特定のスタイルを指すだけでなく、安価で大衆向けのフィクションの代名詞として使われるようになりました。

価格と形態

ダイムノヴェルは、デザインや題材が似通っており、10セントから15セント程度で販売されました。しかし、出版社によって価格やカバーデザインが異なり、同じ出版社でも異なる価格で類似のタイトルが販売されることもありました。このような多様性が、ダイムノヴェルの定義を困難にしました。

ダイムノヴェルの例としては、「Bunce's Ten Cent Novels」「Brady's Mercury Stories」「Beadle's Dime Novels」などがあります。

1874年、ビードル＆アダムス社は、新シリーズ「新ダイムノヴェル」を発売しました。これは、既存のシリーズからの継続ナンバーと新しいシリーズナンバーの二重ナンバー式を採用し、表紙の色も変更されました。多くの物語は、旧シリーズの再刊でしたが、1885年まで321冊が刊行されました。

ダイムノヴェルの発展には、週刊の「ストーリーペーパー」も重要な役割を果たしました。これは、タブロイド判から本格的な新聞型まで様々なサイズで、5〜6セント程度で販売されました。ストーリーペーパーは、連載小説や記事を掲載し、当時においてはテレビのような役割を果たしていました。

ダイムノヴェルには、単発の物語だけでなく、1880年代末からはシリーズキャラクターが登場し人気を博しました。「フランク・リード」「オールド・スルース」「ニック・カーター」などが代表的です。特に「オールド・スルース」は、ダイムノヴェルにおける最初の探偵小説であり、探偵を指す言葉としても使われるようになりました。

1873年には、ビードル＆アダムス社が229×337mm、32ページの新たな形態「新旧の友達」を発売しましたが、成功しませんでした。1877年には「炉端ライブラリー」「フランク・スター・ニューヨーク・ライブラリー」が創刊されました。これらの成功を受けて、10セントの週刊「ライブラリー」が多数登場しました。フロンティア物語に加え、都市を舞台にした犯罪物語が人気となりました。「フランク・タウジー社」の「New York Detective Library」は、特に人気を博しました。

出版社の競争は激化し、1896年にはカラーカバーが導入され、さらに競争が激しくなりました。「週刊ニック・カーター」や「最高ウィークリー」などが人気を集めました。

ダイムノヴェルの衰退

1896年、フランク・マンジーはジュヴナイル雑誌『アーゴシー』を大人向けフィクション誌に転換し、最初のパルプ・マガジンとなりました。20世紀に入ると、パルプ紙と高速印刷技術の発展により、25セントの雑誌が10セントで提供可能となり、ダイムノヴェルは次第に衰退しました。

1910年代には、ダイムノヴェルのシリーズはパルプ・マガジンに転換され、1920年代半ばには、ダイムノヴェルの時代は終わりを迎えました。

ダイムノヴェルのコレクション

1940年代末から1950年代初頭にかけて、ダイムノヴェルの収集が盛んになりました。現在では、多くの大学や図書館がダイムノヴェルのコレクションを所蔵しています。

主なコレクションとしては、以下のようなものがあります。

Library of Congress
スタンフォード大学
ミネソタ大学
南フロリダ大学
北イリノイ大学
ニューヨーク大学
ミズーリ大学
ブランダイス大学
ベイラー大学
テキサス大学オースティン校

これらのコレクションでは、貴重なダイムノヴェルを研究することができます。

ダイムノヴェルの影響

ダイムノヴェルは、アメリカの大衆文化に大きな影響を与えました。その安価でセンセーショナルな内容は、後のペーパーバック、漫画、テレビ番組や映画に引き継がれました。また、ダイムノヴェルは、大衆小説の発展に大きな貢献をしました。

ダイムノヴェルの精神は、現代においても、マスマーケット向けのエンターテイメント作品の中に生き続けています。

参考文献

Cox, J. Randolph『The Dime Novel Companion』
Denning, Michael『Mechanic Accents: Dime Novels and Working-Class Culture in America』
Johanssen, Albert『The House of Beadle & Adams』
LeBlanc, Edward, ed.『The Dime Novel Roundup, multiple issues
Pearson, Edmund, Dime Novels』

関連項目

メロドラマ
ホラー小説
ペニー・ドレッドフル
パルプ・マガジン
ゴシック小説
* イーガン・タイラー・ソウヤー

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