ゴシック小説

ゴシック小説の概要

ゴシック小説（ゴシックしょうせつ）は、18世紀末から19世紀初頭にかけて流行した、神秘的で幻想的な小説のジャンルです。しばしばゴシック・ロマンスと呼ばれ、その後ゴシック・ホラーを含むさまざまな形式に進化しました。この文学形式は、現代のSFやホラー小説の起源とも言われ、多様な影響を与えています。

ゴシック・ロマンスの起源

イギリスの作家ホレス・ウォルポールが1764年に発表した『オトラント城奇譚』は、ゴシック小説の先駆けとされています。彼自身が改築した中世ゴシック風の別荘「ストローベリ・ヒル・ハウス」を舞台にしたこの作品は、幻想的な古城を描き、ゴシック文化の流行に大きな影響を与えました。その後、クララ・リーブの『イギリスの老男爵』（1777年）やアン・ラドクリフの『ユードルフォの秘密』（1794年）など、多くの作品が相次いで登場し、幽霊や怪物、超自然現象が頻繁に描かれるようになりました。

流行と発展

これらの小説はチャップ・ブックや巡回文庫を通じて広く読まれ、その影響は続きました。特にモンタギュー・サマーズが1940年に発表した『ゴシック小説書誌』では、多くのゴシック小説が取り上げられています。この時代の作品群は「恐怖派」とも呼ばれ、その主題は超自然的な恐怖やサスペンスに重きを置くようになりました。特に大陸を舞台にする作品が多かったため、異邦的で神秘的な雰囲気を醸し出しました。

メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』（1818年）は、人造生命をテーマにした革新的な作品であり、ゴシック小説の進化を象徴しています。

時代背景と文化的影響

ゴシック的な嗜好は、1740年代の墓場派詩人たちに見られ、特にトマス・グレイが重要な人物です。また、イギリスの庭園のスタイルにもゴシック風が取り入れられ、ロマン主義的な美意識が形成されました。感傷小説の登場により、「迫害される乙女」というテーマが多くのゴシック作品に盛り込まれました。

19世紀初めには、ファンタスマゴリアとよばれる幻灯機の興行が始まり、小説よりも視覚的な刺激を提供しました。この影響もあり、ゴシック・ロマンスは徐々に衰退していきました。

ゴシックの系譜と影響

ウォルポールの『オトラント城奇譚』は、他の国々、特にフランスやドイツに広まりました。フランスでは、ゴシック小説が多く読まれ、サド侯爵やガストン・ルルーなどが後にゴシック的な作品を生み出しました。アメリカもこの流れに乗り、E.A.ポーやハーマン・メルヴィルによる作品が登場しました。さらに、シェリダン・レ・ファニュやブラム・ストーカーによるゴシック小説も広まりました。

主なゴシック小説とそのモチーフ

ゴシック小説の典型的なモチーフには、古城や廃墟、幽霊、怪奇現象などがあります。これらのテーマは、今日のゴシックジャンルやフィクションにも引き継がれています。代表的な作品には、ウィリアム・トマス・ベックフォードの『ヴァテック』（1786年）、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』（1818年）、ビクトル・ユーゴーの『ノートルダム・ド・パリ』（1831年）、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『ジキル博士とハイド氏』（1886年）、そしてブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』（1897年）などがあります。

ゴシック小説は時代と共に変化し続け、映画や現代文学にも影響を与えています。ケン・ラッセルの『ゴシック』（1986年）や、ピトフの『ヴィドック』（2001年）など、ゴシック趣味が反映された作品が作られています。これらの要素は、今なお多くの創作物に息づいています。

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