ダイヴァー・ダウン

1982年に発表されたヴァン・ヘイレンの通算5作目となるスタジオアルバム、『ダイヴァー・ダウン』は、前作までと比較して多様な音楽的アプローチが見られる作品です。全12曲のうち半数近い5曲が他のアーティストの楽曲をカバーしており、さらに2曲のインストゥルメンタルが収録されている点が最大の特徴と言えるでしょう。

アルバムはリリースされると、全米ビルボード200チャートで最高位3位を記録し、商業的にも成功を収めました。特にシングルカットされた楽曲は大きな注目を集め、先行シングルとして発表されたロイ・オービソンのカヴァー曲「オー・プリティ・ウーマン」は、全米総合チャートで12位にランクインしたほか、権威あるメインストリーム・ロック・チャートでは見事1位を獲得するヒットとなりました。続くセカンドシングル、マーサ＆ザ・ヴァンデラスの楽曲をカバーした「ダンシング・イン・ザ・ストリート」も、全米チャートで38位、メインストリーム・ロック・チャートで3位と健闘しました。また、これらの主要シングル以外にも、バンドのオリジナル楽曲である「シークレット」、「リトル・ギター」、「ザ・フル・バグ」、そしてキンクスのカヴァーである「グッド・タイムズ」などがメインストリーム・ロック・チャートにチャートインしており、アルバム収録曲の多くがロックファンからの支持を得ていたことがわかります。

収録曲の構成は、カヴァー曲とオリジナル曲、そしてインストゥルメンタルが巧みに配置されています。カヴァー曲には、初期のヒット曲「ユー・リアリー・ガット・ミー」に続いて二度目となるキンクスの「グッド・タイムズ」、前述の「オー・プリティ・ウーマン」や「ダンシング・イン・ザ・ストリート」といったロックやモータウンの代表曲、さらには1920年代の古いジャズ・スタンダード「Big Bad Bill (Is Sweet William Now)」や、テレビ番組のエンディングテーマ「ハッピー・トレイルズ」をア・カペラで披露するなど、その選曲の幅広さは特筆に値します。

インストゥルメンタル曲としては、エディ・ヴァン・ヘイレンがボリューム奏法を駆使した実験的なギターソロ曲「大聖堂 (Cathedral)」と、ガットギターの優しい響きが印象的な導入曲「リトル・ギター (イントロ)」が収録されています。

アルバムの制作には、当時のバンドメンバーであるデイヴィッド・リー・ロス（ボーカル）、エドワード・ヴァン・ヘイレン（ギター、キーボード、ボーカル）、マイケル・アンソニー（ベース、ボーカル）、アレックス・ヴァン・ヘイレン（ドラムス）の4人が参加しています。特に「Big Bad Bill (Is Sweet William Now)」では、エディとアレックスの実父でありミュージシャンであるヤン・ヴァン・ヘイレンがクラリネット奏者としてゲスト参加しており、楽曲に独特の雰囲気を加えています。

『ダイヴァー・ダウン』は、そのカヴァー曲の多さから時に企画盤的な側面が語られることもありますが、ヴァン・ヘイレンならではのエネルギッシュな演奏とアレンジ、そしてデイヴィッド・リー・ロスの個性的なヴォーカルとパフォーマンスによって、バンドの多様性と柔軟性を示した作品として、今なおファンに愛されています。後のバンドの音楽性の変化を予感させる要素も含んだ、過渡期における重要なアルバムと言えるでしょう。

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