ダウンビート

「ダウンビート（Downbeat）」という言葉は、音楽の世界においていくつかの異なる文脈で使われています。その主な意味合いは、音楽理論におけるリズムの概念、特定の音楽ジャンル、そして音楽雑誌の名称です。

1. 音楽理論におけるダウンビート

音楽の理論や演奏の文脈では、ダウンビートは小節の先頭に位置する第一拍を指します。これは、各小節の始まりを示す際に指揮者が指揮棒を振り下ろす動作（英語で"downward stroke"）に由来しており、この動きが言葉の起源となっています。

1.1 表拍としての位置づけ

特に日本では、この小節の第一拍であるダウンビートを「表拍（おもてびょうし）」と呼ぶのが一般的です。対義語としては、小節の中間や後半の拍を指す「バックビート（Backbeat）」があります。

1.2 現代音楽とバックビート

現代のポピュラー音楽、特に一般的な4分の4拍子（コモンタイム）の楽曲においては、第一拍であるダウンビートが最も強く強調されることは比較的少なく、むしろ第二拍や第四拍といったバックビートに強いアクセントが置かれる傾向があります。ファンクなど、例外的にダウンビートが強調されるジャンルも存在しますが、多くの場合はバックビートがリズムの推進力となります。

1.3 日本の音楽文化における表拍

日本の伝統的な音楽や大衆音楽には、この表拍（ダウンビート）を明確に打つ、あるいは強調する楽曲が多く見られると指摘されることがあります。例えば、多くの民謡や音頭、あるいは三味線を用いた楽曲などにその特徴が表れています。

民謡：ソーラン節、炭鉱節など
音頭：東京音頭、河内音頭など
三味線曲
応援歌
ラジオ体操

これらの楽曲や場面では、表拍に合わせて手拍子を打ったり、リズムをとったりすることが一般的です。

かつて、欧米のロックミュージックが日本に導入された際、表拍を重視する日本の音楽感覚と、バックビートを強調するロックのリズム感覚の違いから、「日本人にはロックのリズムは難しい」「日本人にロックは無理だ」といった議論が、当時の音楽シーンにおいて交わされた時期もありました。

2. 音楽ジャンルとしてのダウンビート

ダウンビートは、特定の音楽ジャンルを指す言葉としても用いられます。このジャンルは、一般的にゆったりとしたテンポとリラックスした雰囲気が特徴で、しばしば「ダウンテンポ（Downtempo）」、「トリップホップ（Trip Hop）」、「チルアウト（Chillout）」といった名称でも知られています。

2.1 代表的なアーティストと作品

このジャンルの代表的なアーティストや作品としては、以下のようなものが挙げられます。

ヴァイオレント・インディアナ（Violet Indiana）- 『Casino』
ポーティスヘッド（Portishead）- 『ダミー』（Dummy）
ラム（Lamb）- 『フィア・オブ・フォー』（Fear of Fours）
レンディ・ヴェクサー（Lendi Vexer）- 『Suicidal adage』
フーヴァーフォニック（Hooverphonic）- 『ザ・マグニフィッセント・ツリー』（The Magnificent Tree）

これらのアーティストは、ダウンビートの持つ浮遊感や瞑想的なサウンドを特徴としています。

3. 音楽雑誌「DownBeat」

さらに、「DownBeat」は著名な音楽雑誌の名称でもあります。これはアメリカ合衆国で発行されている、特にジャズ音楽に焦点を当てた歴史ある専門誌です。

このように、ダウンビートという言葉は、リズムの基礎概念から特定の音楽スタイル、さらにはメディアの名前まで、多岐にわたる意味合いを持っているのです。

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