ダグラス・ノース

ダグラス・セシル・ノースの生涯と業績

ダグラス・セシル・ノース（Douglass Cecil North, 1920年11月5日 - 2015年11月23日）は、アメリカ合衆国の著名な経済学者であり、新制度派経済学の代表的な人物として知られています。彼は、経済史と制度の重要性を強調し、経済発展のメカニズムを解明する上で大きな貢献を果たしました。1993年には、その功績が認められノーベル経済学賞を受賞しています。

生い立ちと教育

ノースは1920年にマサチューセッツ州ケンブリッジで生まれました。父親の仕事の関係で、幼少期はオハイオ州やコネチカット州の学校で教育を受けました。1942年にはカリフォルニア大学バークレー校を卒業し、人文科学の学士号を取得しました。第二次世界大戦中は商船員として従事し、戦後にはセミプロの写真家としても活動しました。

学術キャリア

1950年から1983年までワシントン大学（シアトル）で教鞭を執り、1952年にはカリフォルニア大学バークレー校で経済学の博士号を取得しました。その後、ライス大学やケンブリッジ大学でも教職を歴任し、1983年からはセントルイス・ワシントン大学で教鞭を執りました。また、スタンフォード大学フーバー研究所の上級研究員も務めました。

新制度派経済学の提唱

ノースは、ロナルド・コースやオリバー・ウィリアムソンらと共に、新制度派経済学の発展に大きく貢献しました。彼の研究は、経済における制度の役割を重視し、取引コストや所有権といった概念を用いて、経済活動を分析しました。特に、所有権理論に対する貢献は大きく、経済史における組織の研究や、経済成長の歴史的過程に関する新制度派の理論を応用した分析で多大な功績を挙げました。

制度変化の分析

ノースは、経済史研究において、新制度派の理論を応用し、制度の変化に関する分析を行いました。彼は、制度が経済成長に与える影響を研究し、制度の変化が経済発展の重要な要因であることを示しました。これにより、経済史と新制度派理論を結び付け、新たな視点から経済史を解釈する道を開きました。

政治学への影響

ノースの理論は経済学だけでなく、政治学にも大きな影響を与えました。彼の新制度派の理論は、政治学の新制度論、特に合理的選択制度論の発展に貢献しました。政治学者バリー・ワインゲストとの共同研究では、名誉革命を制度の観点から分析しました。

ソ連批判

ノースは、大学院時代にマルクス主義者でしたが、ソビエト連邦の体制を批判的に分析しました。彼は、ソ連の指令経済の構造やインセンティブ構造の欠陥を指摘し、集権的な制度が経済の発展を阻害したと論じました。また、ソ連の改革が失敗に終わった理由を、柔軟性のない制度や不十分な市場メカニズムの導入にあると分析しました。彼は、適応効率性を重視し、社会が制度を柔軟に修正できる必要性を強調しました。

受賞と著作

1991年にはジョン・コモンズ賞を、1993年にはロバート・フォーゲルと共にノーベル経済学賞を受賞しました。これは経済史の研究者としては初の快挙でした。主な著作には、『文明史の経済学――財産権・国家・イデオロギー』、『制度・制度変化・経済成果』、『西欧世界の勃興――新しい経済史の試み』などがあります。これらの著作は、彼の経済史と制度に対する深い洞察を示しており、多くの研究者に影響を与えています。

その他の活動

ノースは、経済学の分野に留まらず、幅広い分野で活躍しました。彼の研究は、経済史、政治学、社会学など、多様な分野の研究者にとって重要な示唆を与えています。2015年、彼は夏の別荘があるミシガン州ベンゾニアで95年の生涯を閉じました。

ノースの功績は、制度が経済成長に不可欠な役割を果たしていることを明らかにし、経済学だけでなく、社会科学全般に大きな影響を与えました。彼の研究は、現代社会における経済発展を理解する上で欠かせないものとなっています。

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