ダック・コール

『ダック・コール』の魅力

『ダック・コール』は、日本の作家、稲見一良による連作短編集です。この作品は、様々な物語が織り成す中で一つのテーマを描き出しており、その根底には人間と自然との関わりが浮かび上がります。特に、レイ・ブラッドベリの短編『刺青の男』から影響を受けた点が大きな特徴です。作品のタイトルの由来でもある「ダック・コール」とは、鴨の鳴き声を模したものを指し、作品全体を通じて、その自然に対する視点が強く打ち出されています。

受賞の経緯

本作は、原稿が1991年2月に早川書房から出版される前に完成していました。この作品は、書評家の縄田一男が感銘を受け、新潮社の山本周五郎賞にノミネートされることになります。この賞には、小池真理子や宮城谷昌光といった著名作家たちも参加しており、稲見は当初苦戦が予想されました。しかし、『ダック・コール』は藤沢周平や井上ひさし、田辺聖子といった選考委員からの高い評価を受け、ついには受賞に至りました。著名作家たちの中での競争を経て、作品が持つ独特な世界観と美しさが認められたことは、非常に意義深い出来事です。

物語の構成

本書は、旅をする若者と不思議な男との出会いを描くプロローグ・モノローグ・エピローグに加え、6つの短編から成り立っています。それぞれの物語は独立しつつも、全体として共通したテーマを持っています。

第1話 望遠

この話では、CM制作のプロダクションで働く若者がPR映画用の映像を撮影するために日夜奮闘しています。そんな中、彼は珍しい鳥、シベリア・オオハシシギと出会い、その希少性を感じ取ることがテーマになっています。自然の中での彼の姿勢が、周囲との関係を深めるきっかけとなります。

第2話 パッセンジャー

ここでは、アパラチア山中の村で狩りに出かけた主人公が、リョコウバトの大量虐殺に遭遇します。彼が目の当たりにする惨劇は、人間と自然との関係を問い直させるものです。この物語は、1990年の『ミステリマガジン』にも初出として紹介されています。

第3話 密漁志願

主人公はガンを患い会社をリタイアした後、密漁をする少年「ヒロ」と出会います。「ヒロ」は小学生ながらも、非常に上手に獲物を捕らえる才能を持っています。この物語では、少年の無邪気さと、主人公の内面の成長が描かれます。

第4話 ホイッパーウィル

脱獄したインディアンを捕まえるために集められた山狩り集団の中で、日系人の「ケン・タカハシ」が知るオーキィの真の目的は故郷を探し出すことであることがわかります。文化の違いや対立を超えた人間の絆が試される場面が印象的です。

第5話 波の枕

年老いた漁師「源三」が夢の中で、沈没した漁船から助けを求める亀と出会う幻想的なストーリーです。この話では、種を超えた存在同士のコミュニケーションが描かれ、神秘的なテーマが展開されます。

第6話 デコイとブンタ

「デコイ」は鴨に似せた模造の鳥であり、訳ありの少年「ブン」との冒険が繰り広げられます。遊園地の観覧車を舞台に、シーズンオフ間近の物語が展開されます。1989年発表の短編を改稿したもので、物語のメッセージはそのままに新たな展開を見せています。

結論

『ダック・コール』はただの短編集ではありません。自然と人間、そして彼らの深い関わりを描いた作品であり、稲見一良の独特な視点が色濃く反映されています。各短編が持つテーマの重なり合いが、全体のメッセージを深めています。この作品は、読む人に感動とともに、多くの思考の種を提供してくれることでしょう。

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