ダニエル・スティルウェル

ダニエル・スティルウェル（活動期間：1714年 - 1718年）は、18世紀初頭のカリブ海で活動した海賊であり、悪名高いベンジャミン・ホーニゴールドの重要な仲間として知られています。

彼はジャマイカで生まれ育ちましたが、引退した元海賊であるジョナサン・ダーヴェルの娘と結婚したことを機に、バハマ諸島のエルーセラ島へと移住しました。この結婚と移住が、その後の彼の運命を大きく左右することになります。

1714年、ベンジャミン・ホーニゴールドはハーバー島とエルーセラ島を拠点に新たな航海計画を立てていました。ホーニゴールドは、スティルウェルの義父にあたるジョナサン・ダーヴェルと契約を結び、彼の所有するスループ船「ハッピー・リターン」を借用します。そしてこの時、スティルウェル自身も、義弟であるザキアス・ダーヴェルと共にホーニゴールドの乗組員に加わり、海賊としてのキャリアをスタートさせることになったのです。

スティルウェルはホーニゴールドの一味として、フロリダやキューバの沿岸海域で活発な略奪行為を展開しました。彼らの海賊活動は成功を収め、短期間のうちに2,000ポンドもの莫大な利益を上げたと記録されています。

しかし、海賊の活動が活発化するにつれて、バハマを管轄する政府との関係は悪化の一途をたどります。特に、スペインとの関係悪化を恐れたナッソーの政府代理人トマス・ウォーカーは、ハーバー島に潜伏する海賊たちに対し、奇襲攻撃を決行することを決めました。この攻撃により、ベンジャミン・ホーニゴールド自身は辛くも難を逃れましたが、スティルウェルとザキアス・ダーヴェルはウォーカーによって捕らえられてしまいました。

ウォーカーは捕らえたスティルウェルをジャマイカのアーチボルト・ハミルトン総督のもとへ送り、海事裁判にかけるべくスループ船に乗せて護送しました。しかし、この護送中に思わぬ事態が発生します。ウォーカーの襲撃を逃れて潜伏していたホーニゴールドらが、その護送船を大胆にも急襲したのです。彼らは見事にスティルウェルを奪還し、政府の目論見を打ち砕きました。

この劇的な奪還事件は、ベンジャミン・ホーニゴールドの海賊社会における権威を一層強固なものにしました。ホーニゴールドは、ナッソー周辺の海賊たちは自身の庇護下にあると公言し、政府代理人ウォーカーに対して、海賊に手を出せば彼の家に火を放ち、家族を鞭打つと露骨な脅迫を行ったと伝えられています。

その後、イギリス国王ジョージ1世は海賊に対する恩赦に関する布告を発します（1717年9月5日）。これを受け、翌1718年2月、イギリス海軍のフリゲート艦HMSフェニックス号（艦長ヴィンセント・ピアース）がナッソーに入港した際、ダニエル・スティルウェルはベンジャミン・ホーニゴールドをはじめとする多数の海賊たちと共にフェニックス号に投降し、国王の恩赦を受け入れる道を選びました。

恩赦を受け入れた多くの海賊が海賊稼業から足を洗った後、スティルウェルは新たな人生を歩み始めます。彼は義父ジョナサン・ダーヴェルから譲り受けた「ハッピー・リターン」号を含む複数の船を買い取り、船主となりました。海賊としての荒々しい生活から一転、商業的な活動に従事したと考えられます。

しかし、恩赦を受けた後の彼の正確な足取りや、いつ、どこでその生涯を終えたのかなど、船主となった以降の人生の詳細については、残念ながら詳しい記録は残されていません。彼の活動期間は短かったものの、ベンジャミン・ホーニゴールドの配下として、また劇的な捕縛・奪還劇の中心人物として、当時の海賊史の一幕を飾った人物と言えるでしょう。

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