ベンジャミン・ホーニゴールド

ベンジャミン・ホーニゴールド（1680年頃 - 1719年?）は、18世紀初頭の著名なイギリス人海賊です。スペイン継承戦争中はイギリスの私掠船員として活動しましたが、戦後の不安定な状況下で海賊行為に転じ、バハマ諸島ナッソーを一大海賊拠点へと発展させました。彼は多くの海賊を配下に収め、「海賊共和国」と呼ばれる自治的な共同体の中心人物となります。中でも、後に「黒髭」として悪名を馳せるエドワード・ティーチは、彼の元で海賊としてのキャリアをスタートさせました。晩年は、イギリス政府が海賊に対する恩赦を発令したことを機に態度を一変させ、海賊を追討する海賊ハンターとして活動しました。しかし、その生涯は、交易航海中の船の難破という不慮の事故で突然の幕を閉じたと伝えられています。

海賊活動の始まり

スペイン継承戦争が終結すると、職を失った多くの私掠船員が海賊となりました。ホーニゴールドもその一人で、1713年頃に海賊稼業を開始。彼は仲間と共に、当時総督が不在で法の支配が緩やかだったバハマ諸島のプロビデンス島ナッソーを活動拠点と定めました。ホーニゴールドらは数隻の快速カヌー（ピローグ）を用い、ジョン・コックラムやジョン・ウェストらをリーダーとする複数のグループに分かれて活動。半年足らずの間にフロリダ海峡やキューバ周辺で活発な略奪を行い、大量の戦利品をナッソーに運び込みました。略奪品は、ジャマイカでの摘発を避けるため、ハーバー島の商人リチャード・トンプソンを通じて換金されたといいます。1714年、スペインによる報復攻撃の噂が広まると、ウェストは海賊から足を洗い、ホーニゴールドは一時コックラムと共にハーバー島へ移りました。

勢力の拡大と「フライング・ギャング」

スペインの報復攻撃は実現されず、ホーニゴールドは海賊行為を再開しました。エルーセラ島の商人ジョナサン・ダーヴェルらの支援を得てスループ船「ハッピー・リターン号」などを手に入れ、ダニエル・スティルウェルといった新顔も仲間に加わります。1714年夏以降、彼らは再びフロリダやキューバ沿岸で略奪を重ね、大きな利益を上げました。さらに大型船を増やし、キューバの貴族船を拿捕して銀貨や貴重品を奪うなど、その活動はエスカレートしていきました。これらの海賊行為はスペインとの関係を悪化させ、バハマの政府残党を率いるトマス・ウォーカーは海賊討伐に乗り出し、ハーバー島への奇襲でスティルウェルを捕縛します。ホーニゴールドらは逃れましたが、後に護送中のスティルウェルを救出し、ウォーカーの試みを阻みました。

1715年、フロリダ沖でのスペイン財宝船団の難破は、一攫千金を夢見る無数の冒険者やならず者をバハマへと引き寄せました。ホーニゴールドは部下となったエドワード・ティーチと共に、難破船目当てに集まる船やスペイン商船を次々と襲撃。砲を備えた大型スループ船「メアリー号」を拿捕して旗艦としました。豊富な戦利品と共にナッソーに戻ったホーニゴールドは、この地を海賊たちの自治区とする計画を立てます。彼は集まってきた海賊たちや難破船漁りたちを自らの保護下に置くと宣言し、彼らの共同体を「フライング・ギャング」と名付けました。ナッソーで絶大な影響力を持つようになったホーニゴールドは、ウォーカーさえも脅迫するに至ります。彼はさらに大型のスペイン船を拿捕し、「ベンジャミン号」と名付けて新たな旗艦とし、200人もの乗組員を擁する強力な海賊集団のリーダーとなりました。もはやウォーカーにとって、ホーニゴールドとフライング・ギャングは制御不能な存在となっていたのです。

こうしてプロビデンス島ナッソーは、海賊たちが独自の規則で自治を行う「海賊共和国」の中心地となります。ホーニゴールドは他の有力者と共に島の総督を自称しました。しかし、ジャマイカ総督から正式な私掠免許を得てナッソーに現れたヘンリー・ジェニングスとは緊張関係が生じます。ジェニングスはホーニゴールドから小型船を奪いましたが、ホーニゴールドはその大勢力との衝突を避け、これを受け入れました。1716年には、ジェニングスが追っていたフランス商船「マリアンヌ号」をホーニゴールドが先に拿捕するなど、両者の間には複雑な関係がありました。

グループの変遷と内部分裂

マリアンヌ号拿捕後、ジェニングスを離れたサミュエル・ベラミーやポールスグレイブ・ウィリアムズがホーニゴールドの仲間に加わりました。ホーニゴールドはベラミーを高く評価し、マリアンヌ号の指揮を任せます。さらにフランス人海賊オリビエ・ルバスールとも共闘し、ユカタン海峡やキューバ沖で略奪を行いました。しかし、旗艦ベンジャミン号が損傷したためナッソーに戻り、船を売却して新たな旗艦「アドベンチャー号」を購入しました。この頃、ホーニゴールドはティーチらにナッソー砦の武装化を進めさせ、ウォーカーは恐れて島を去りました。

ホーニゴールドはベラミーやティーチ、ルバスールらと一時行動を共にしましたが、彼が頑なにイギリス船への攻撃を避けたことが原因で仲間との間に亀裂が生じます。これは、彼がかつてイギリスのために戦った私掠船員であったことからの信念でした。乗組員の不満が高まり、ベラミーとルバスールは投票によりホーニゴールドを司令官の座から引きずり下ろします。ホーニゴールドはティーチを含む26人の忠実な仲間と共にナッソーへと帰還しました。

再起と海賊ハンターへの転身

ナッソーに戻ったホーニゴールドは、引き続き島の防備強化に尽力。港の入り口に強力な防御ラインを築きました。この頃、ティーチに拿捕したスループ船の指揮を任せ、ティーチはホーニゴールドやジェニングスに次ぐ有力海賊へと成長します。権威が揺らいでいたホーニゴールドは、1717年春頃、ティーチと共に再び活発な略奪航海に出ました。この航海で、ジャマイカ船から医者のジョン・ハウエルを強制的に仲間に加え、ポルトベロ沖では多額の金貨と高い船価値を持つスループ船「ボネット号」を拿捕。これを新たな旗艦とし、元のボネット号船長にはアドベンチャー号を与えました。さらに別の船も拿捕し、この一連の略奪で巨額の利益を上げ、名声を取り戻しました。ナッソーに戻りボネット号を強化した後、再びティーチと航海に出て複数の船を襲いました。同時期、負傷した海賊スティード・ボネットがナッソーに現れ、ホーニゴールドらはリベンジ号の指揮をティーチに委ねることに同意しました。

1717年9月、イギリス国王ジョージ1世は海賊に対する恩赦布告を出します。ナッソーの海賊たちの間では賛否両論が巻き起こり、恩赦を受け入れようとするホーニゴールドやジェニングスらの勢力と、チャールズ・ヴェイン率いる抵抗勢力に二分されました。ジェニングスがバミューダへ投降する中、ホーニゴールドはナッソーに留まり、事態の収拾を見守りました。1718年2月、イギリス海軍のフリゲート艦がナッソーに入港すると、ホーニゴールドら恩赦支持派はこれを歓迎し、抵抗するヴェインに関する情報を提供。ヴェインは一時捕らえられますが、ホーニゴールドらの進言で釈放され、再び海賊行為を再開します。しかし、同年7月、バハマ総督としてウッズ・ロジャーズが着任すると、海賊共和国は事実上の終焉を迎えます。ホーニゴールドは赦免された他の海賊やかつての宿敵ウォーカーと共に総督を迎え入れました。

ロジャーズ総督は島の治安回復のため、ホーニゴールドを含む元海賊たちを海賊討伐の任務に起用しました。ホーニゴールドは海賊ハンターとして活動を開始し、チャールズ・ヴェインや、恩赦を受けながら海賊に戻ったジョン・オーガーらを追跡・捕縛する作戦に参加しました。彼が捕らえた海賊の中には死刑判決を受けた者も多く、かつての仲間や同業者を法の手に引き渡す役割を担いました。

最期

海賊ハンターとして実績を上げていたホーニゴールドですが、1719年、交易のためにメキシコへ向かう途上、彼の乗る船が暗礁に乗り上げて難破しました。この事故により、ホーニゴールドを含む多くの乗組員が命を落としました。わずかに5名の生存者がカヌーで脱出し、救助されたと伝えられています。

人物と逸話

ホーニゴールドは、当時の凶暴な海賊たちの中では比較的穏和な人物であったとされています。彼に襲われたある船長は、船を降伏させた時のエピソードを語っています。ホーニゴールドは船に乗り込んできたものの、略奪品を要求するのではなく、どこか申し訳なさそうに、海に帽子を落としてしまった自分の海賊たちのために、乗組員の帽子を譲ってほしいと頼んだといいます。帽子を受け取ると、彼は平和裏に船から去っていったとされています。

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