ダニエル・セーヘルス

ダニエル・セーヘルスについて

ダニエル・セーヘルス（Daniel Seghers, 1590年12月3日 – 1661年11月2日）は、17世紀のフランドルを代表する画家の一人です。彼は特に花の静物画、中でも花環図（花で装飾された円形の図）を多く描いたことで知られています。弟のヘラルト・セーヘルスも画家として活動していました。

生涯

セーヘルスはアントウェルペン（アントワープ）で生まれました。幼少期には、父親の死と母親のカルヴァン派への改宗という出来事を経験し、ネーデルラント連邦共和国へと移住します。しかし、1611年には再びアントワープに戻り、著名な画家ヤン・ブリューゲルの工房に入門しました。その後、カトリックに再改宗し、メヘレンでイエズス会士の見習いとなります。1625年までアントワープで画家として活動し、1621年にはブリュッセルにも滞在しています。セーヘルスが聖職者に叙任されたかどうかについては、意見が分かれており、平修士のままだったとする説もあります。1625年から1627年の間はイタリアに滞在し、その後は亡くなるまでアントワープで生活しました。

作品の特徴

セーヘルスの代表作である花環図は、当時のフランドル絵画の典型的なジャンルであり、聖母や聖人などの宗教的なシンボルを花で囲む様式を特徴としています。この様式は、彼の師であるヤン・ブリューゲルが、イタリアの美術愛好家であった枢機卿フェデリコ・ボロメオのために描き始めたのが始まりとされています。17世紀後半になると、宗教的なテーマに限定されず、肖像画や神話的なモチーフも花で囲まれるようになりました。

セーヘルスは、主に花の部分（開花直前のバラやチューリップなど）を描き、中央部分は他の画家が担当しました。彼の共同制作者には、コルネリス・スフート、エラスムス・クエリヌス2世、アブラハム・ファン・ディーペンベーク、シモン・デ・フォス、ヤン・ファン・デン・ヘッケ、ゴンザレス・コックス、そして巨匠ルーベンスといった、当時活躍していた多くの画家たちが名を連ねています。また、トーマス・ヴィルボールツ・ボスハールトは、セーヘルスの助手として知られています。

当時の評価と影響

セーヘルスの作品は、生前から非常に人気があり、多くのコレクターに愛されました。彼の作品を模倣する画家も現れるほどでした。特に、デン・ハーグのオラニエ公フレデリック・ヘンドリックの宮廷で人気を博し、その書記官であったコンスタンティン・ホイヘンスは、詩の中でセーヘルスの作品を称賛し、彼の絵から実際に花の香りが漂ってくるようだと述べています。また、オランダの詩人ヨースト・ファン・デン・フォンデルも、セーヘルスの作品を高く評価していました。

さらに、スウェーデン女王クリスティーナ、イングランド王チャールズ1世、スペイン王フェリペ4世、マリー・ド・メディシス、イングランド王チャールズ2世といった王侯貴族たちもセーヘルスの作品を収集していました。チャールズ2世は1649年にレオポルト・ヴィルヘルムと共にセーヘルスの元を訪ねた記録も残っています。

セーヘルスの作品の多くは、銅板に油彩で描かれ、キャビネット絵画として使用されました。彼の作品は、通常の画商ルートを通さず、主にイエズス会を通じて、イエズス会の学校などを支援する貴族階級の人々に贈答品として贈られました。これにより、彼の作品はより希少価値が高まり、コレクションの対象となったと考えられます。

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