ダニエル・ベルヌーイ

ダニエル・ベルヌーイ：数学、物理学、経済学にまたがる偉大な業績

ダニエル・ベルヌーイ (1700年2月8日-1782年3月17日) は、スイスのバーゼルで生まれた傑出した数学者、物理学者です。数学者として著名なヨハン・ベルヌーイを父に持ち、数学者一家に生まれた彼は、その才能は兄弟の中でも際立っていました。13歳でバーゼル大学に入学し、15歳で学士号、16歳で修士号を取得するなど、並外れた早熟ぶりを見せました。しかし、父の意向により当初は医学の道を歩むこととなり、1721年には呼吸のメカニズムに関する博士論文をまとめました。

医学の研修のためヴェネツィアに移ったダニエルは、そこで数学への情熱を再び燃やし、1724年には最初の著作『数学演習』を出版します。この著作と、彼が設計した航海用砂時計は、高い評価を受け、パリ・アカデミー賞を受賞しました。これらの功績が認められ、兄ニコラウス2世とともにサンクトペテルブルク科学アカデミーに招聘され、1725年からロシアで研究生活を送ることになります。

サンクトペテルブルクでは、のちに著名な数学者となるレオンハルト・オイラーと出会い、協力して研究を進めました。この期間、彼はカテナリ曲線、弦の振動、経済理論への確率の応用など、幅広い分野で研究成果を挙げ、流体力学に関する研究の基礎を築きました。1733年にサンクトペテルブルクを離れ、バーゼル大学に戻ったダニエルは、植物学、生理学、そして1750年からは念願の物理学の教授職に就き、16年にわたって後進の育成に尽力しました。パリ・アカデミー大賞を10回受賞するなど、その研究は天文学や海洋学にまで広がり、多大な成果を上げました。

ダニエルの最も重要な業績は、1738年に出版された『Hydrodynamica』（流体力学）です。この書は、流体の運動をエネルギー保存則に基づいて統一的に記述した画期的なものでした。「流体の速度が速くなると圧力が低下する」というベルヌーイの定理は、今日の流体力学の基礎となっています。この定理は、友人のオイラーによってさらに洗練され、今日の流体力学の基礎を築きました。この著作は、父ヨハンと著作権を巡る争いを引き起こすことにもなります。父ヨハンはダニエルの著作内容を盗用したと主張し、ダニエルとの関係は修復不可能なものとなりました。

自然科学分野以外でのダニエルの功績として、経済理論への貢献が挙げられます。1738年に発表した論文「リスクの測定に関する新しい理論」では、サンクトペテルブルクの逆説を解決するための画期的なアイデアを提示しました。これは、期待値ではなく限界効用に着目することで、リスクのある意思決定を合理的に説明しようとするもので、現代経済学における期待効用理論の基礎を築きました。この理論は、のちにジェヴォンズやフォン・ノイマンとモルゲンシュテルンによって発展させられることになります。

ダニエル・ベルヌーイは、数学、物理学、そして経済学において、時代を先駆ける数々の業績を残しました。彼の研究は、現代科学技術の基礎を築き、今日の私たちの生活にまで影響を与え続けています。彼の波乱に満ちた人生と、並外れた才能は、後世の人々に深い感銘を与え続けています。天才的な数学者、物理学者としてだけでなく、経済学の先駆者としての彼の功績は、改めて高く評価されるべきでしょう。彼の研究は、今日でもなお、多くの分野で研究者たちに刺激を与え続けています。

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