ダビデとヨナタン (レンブラント)

レンブラントの油彩画「ダビデとヨナタン」：聖書の物語と巨匠の感情

17世紀オランダ黄金時代の巨匠、レンブラント・ファン・レインが1642年に描いた油彩画「ダビデとヨナタン」は、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に所蔵されている名作です。オーク板に油彩で描かれたこの作品は、レンブラント中期の作品の中でも特に輝かしい色彩と、絵具の質感が際立つ傑作として知られています。

作品の主題：ダビデとヨナタンの別れ

かつては、この絵画の主題について様々な解釈がありました。「放蕩息子の帰宅」や「エサウとヤコブの和解」といった説もありましたが、現在では旧約聖書「サムエル記」の「ダビデとヨナタンの別れ」の場面を描いているという解釈が定説となっています。

サウル王の息子であるヨナタンは、ダビデの親友でした。サウル王がダビデを殺害しようと企む中、ヨナタンはダビデにその危険を知らせ、逃げるように促します。エゼルの岩で2人は最後の別れをしますが、この場面が絵画の中心に描かれています。絵画の左側遠景にはエルサレムが輝き、ダビデの足元には、ゴリアテに勝利した後にヨナタンから贈られた矢束が置かれていると解釈されています。

レンブラントの表現：愛と悲しみの交錯

レンブラントは、泣き崩れるダビデをヨナタンが優しく抱きしめている様子を、深い感情を込めて描いています。「サムエル記」にある「ヨナタンは、ダビデへの愛によって彼にふたたび誓わせた。というのは、ヨナタンは自分自身を愛するようにダビデを愛したからである」という一節を彷彿とさせる、感動的な場面です。

若いダビデの抑えきれない感情と、年上でより成熟したヨナタンの、悲しみを湛えた表情の対比が印象的です。愛と別れ、そして深い悲しみといった感情が、絵画全体に充満しています。レンブラントが最愛の妻サスキアを失った直後にこの作品を描いたという事実から、私的な感情が投影されているという解釈も成り立ちます。

作品の来歴と帰属

1882年にはエルミタージュ美術館のコレクションを形成する初期作品の一つとして収蔵されました。しかし、1980年代にはレンブラント研究プロジェクトによってレンブラントの弟子による作品との見解が出されました。その後、2015年に改めてレンブラントの作品として再評価され、現在に至っています。この作品の帰属をめぐる議論は、レンブラント作品研究において重要な事例となっています。エルミタージュ美術館には、他にもレンブラントの多くの作品が所蔵されており、『フローラ』、『キリスト降架』、『イサクの犠牲』、『天使のいる聖家族』、『放蕩息子の帰還』など、彼の多様な表現様式を垣間見ることができます。

まとめ

「ダビデとヨナタン」は、聖書の物語を題材としながらも、レンブラント自身の深い感情が反映された、まさに巨匠の技が光る傑作です。その圧倒的な表現力と、絵画に込められた感情の深さは、見る者を強く惹きつけ、いつまでも記憶に残る作品となっています。レンブラントの芸術を理解する上で、必見の作品と言えるでしょう。

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