ダビデ像 (ミケランジェロ)

ミケランジェロの傑作「ダビデ像」：その歴史、構成、そして解釈

ミケランジェロが1501年から1504年にかけて制作した「ダビデ像」は、ルネサンス美術を代表する彫刻作品であり、フィレンツェのアカデミア美術館に収蔵されています。この像は、単にミケランジェロの代表作というだけでなく、ルネサンス期を通じて最も卓越した作品の一つとされています。人間の力強さと美の象徴として、芸術史における最も有名な作品の一つとして広く知られています。

ダビデ像の概要

ダビデとは、旧約聖書に登場するイスラエル王国の二代目統治者であり、巨人ゴリアテを倒した英雄として知られています。ミケランジェロのダビデ像は、高さ517cmの巨大な大理石彫刻で、ゴリアテとの戦いに臨む直前のダビデの姿を捉えています。左肩に投石器をかけ、狙いを定める緊張感のある表情は、観る者に強い印象を与えます。また、ルネサンス期の特徴として、瞳がハート型に象られていることや、ユダヤ人であることを示す割礼の痕跡がない点が挙げられます。

当初、ダビデ像はフィレンツェ市庁舎の前に飾られていましたが、後にアカデミア美術館に移されました。その間、フィレンツェが外敵に脅かされた際には、この像は巨人に立ち向かうフィレンツェの象徴として解釈されるようにもなりました。

ダビデ像完成までの道のり

ダビデ像の制作は、ミケランジェロが制作を開始するはるか以前から始まっていました。1464年、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の運営を担う大聖堂造営局は、大聖堂のバットレスに旧約聖書を題材とした12体の巨大彫像を飾る計画を立てていました。この計画は、外部の脅威が高まる中で、聖書に登場する英雄の像を飾ることでフィレンツェの士気を高めようとするものでした。

しかし、計画はなかなか進まず、1463年の時点で完成していたのはドナテッロの「預言者像」と、その弟子アゴスティーノ・ディ・ドゥッチオによる「ヘラクレス像」の2体のみでした。そこで大聖堂造営局は、アゴスティーノにダビデ像の制作を依頼しましたが、彼は像の脚部と胸部の概観を作成したところで制作を中断してしまいます。その後、アントニオ・ロッセリーノにも依頼しましたが、この契約も破棄され、巨大な大理石の塊は25年もの間、放置されることになりました。

1500年、大聖堂事業監督所は、この大理石を完成させる芸術家を探すことを決意します。レオナルド・ダ・ヴィンチを含む多くの芸術家が候補に挙がりましたが、最終的に、26歳の若きミケランジェロに委託されることになりました。1501年8月16日、ミケランジェロは正式に契約を交わし、翌9月9日から約3年をかけて制作に取り組みました。

ミケランジェロは、好奇の目に晒されるのを嫌い、周囲を仕切りで囲んで極秘裏に作業を進めました。市長が視察に来た際には、作業台の上で槌の背だけを叩いて音を出し、石の粉末をまき散らすことで作業をしているふりをし、市長を欺いたという逸話も残っています。

完成後の設置場所とその後

1504年1月25日、フィレンツェ市当局は、ダビデ像の設置場所を決定するための協議会を開催しました。芸術家たちの意見は分かれましたが、最終的に、シニョリーア広場に面した市庁舎の正面入口脇に置くことが決定しました。

もともと市庁舎前に置かれていたドナテッロの「ユディトとホロフェルネス」は、メディチ家を称える作品であったため、反メディチ家の象徴としてダビデ像が選ばれたという説もあります。その後、メディチ家が復権した際には、ダビデ像の首が切り落とされた戯画が出回るなど、政治的な意味合いも帯びるようになりました。

1873年、像の劣化を防ぐため、ダビデ像はアカデミア美術館に移設され、現在に至ります。かつてダビデ像があった場所には、1910年から複製が置かれています。

ダビデ像の構成と解釈

ダビデ像は、人体に関する正確な知識と芸術的な規律に基づいて制作されています。コントラポスト（左右非対称でありながら調和の取れた構図）の好例であり、人物のポーズとバランスが絶妙です。しかし、各部分の比率は均衡が取れているわけではありません。頭や上半身が下半身に対して大きく作られているのは、像を正面下方から見上げた際に均整が取れて見えるように計算されているためです。

表情については、憤怒の感情が如実に表現されています。ミケランジェロは、人間の外見に内面が反映されるという人相学に基づいて表現したと考えられています。また、ダビデがゴリアテに立ち向かう直前の姿を描いている点も、先行作品とは異なる特徴です。

ダビデ像に割礼の跡がないことは、聖書に基づいた表現ではないという論争を引き起こしました。この点については、古代ギリシアの美学的理想を模倣する上で、割礼の跡は不要であるという解釈も存在します。

レプリカと著作権

ダビデ像の実物大レプリカは、世界中に数多く存在します。また、2014年には、銃器メーカーがダビデ像をモチーフとしたポスターを製作し、イタリア政府が著作権を主張しました。ダビデ像の著作権はイタリア政府にあり、商業利用は認められないという見解が示されています。

まとめ

ミケランジェロのダビデ像は、ルネサンス期を代表する傑作であり、その芸術的な価値は今もなお高く評価されています。制作の背景や歴史、像の構成と解釈を知ることで、この像の魅力はさらに深まります。

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