ダフニ修道院

ダフニ修道院は、ギリシャのアテネから北西へ約11kmのダフニに位置する、中期ビザンティン建築の修道院です。現存するのは中央聖堂のみで、その建設は11世紀末と考えられていますが、修道院自体の設立は5世紀から6世紀の間と推測されています。この修道院は、アテネとエレウシスを結ぶ古代の道沿いにあり、かつてはアポロ・ダフネイオスの神域が存在した場所でした。

歴史

修道院の設立に関する記録は残っておらず、その詳細な歴史は不明な点が多いです。しかし、敷地の考古学的調査から、5世紀頃にバシリカが建設されていたことが判明しており、これが修道院設立の基礎になったと考えられています。また、ユスティニアヌス1世によって築かれた巨大な市壁の北側に位置していたことも分かっています。最初の修道院は、7世紀から8世紀にかけてのスラブ人の侵入によって放棄されましたが、後にミカエル7世ドゥーカスからアレクシオス1世コムネノスの時代に再建されました。現在残る中央聖堂は、この再建時に建てられたもので、モザイクの様式から1075年から1100年頃に「神の母」に捧げられたものと考えられています。

1205年にラテン帝国が成立すると、この地域はテッサロニキ王国の影響下に入り、ダフニ修道院は1207年にカトリックの聖堂となり、ベルヴォーの大司教が管理しました。この際、中央聖堂の外ナルテクスと区画塀が追加されましたが、モザイクはほぼ無傷で残りました。ただし、中央ドームの『パントクラトール』の一部は破損しました。1458年にはオスマン帝国によって接収され、東方正教の修道院に戻りましたが、財政難から徐々に荒廃しました。1821年にトルコ政府から解放された後、修復工事が開始されたのは1888年のことでした。

構造

中央聖堂は、中期ビザンティン建築の特徴であるスクィンチ式教会堂の形態をしています。スクィンチで支えられたドームは直径7.5mで、オシオス・ルカス修道院の中央聖堂とほぼ同じ平面を持っています。ただし、ダフニ修道院には幅の広い外ナルテクスが設けられています。外壁は、オシオス・ルカス修道院と同様にクロワゾネ積みですが、より目地が整っており、洗練された印象を与えます。

内部装飾

中央聖堂の内部には、11世紀に制作された貴重なモザイクが残っています。これらのモザイクは、ビザンティン美術の重要な作例とされています。特に、『キリストの生涯』を描いた場面は、その芸術性の高さで知られています。

世界遺産

1990年、ダフニ修道院は、オシオス・ルカス修道院、ヒオス島のネア・モニ修道院と共に、「ダフニ修道院、オシオス・ルカス修道院、ヒオス島のネア・モニ修道院」としてユネスコの世界遺産に登録されました。この登録は、これらの修道院が持つ歴史的、文化的価値を国際的に認めたものです。

関連情報

• - ビザンティン建築
• - ダフニ修道院、オシオス・ルカス修道院、ヒオス島のネア・モニ修道院
• - オシオス・ルカス修道院
• - ネア・モニ修道院

参考文献

• - シリル・マンゴー 著、飯田喜四郎 訳『ビザンティン建築』 本の友社、1999年
• - ジョン・ラウデン 著、益田朋幸 訳『初期キリス教美術・ビザンティン美術』 岩波書店、2000年
• - 益田朋幸『ビザンティン』山川出版社、2004年

ダフニ修道院は、ビザンティン建築の精華を伝える貴重な遺産であり、その歴史と美しさは、訪れる人々を魅了し続けています。

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