ダブル・ダブル (推理小説)

エラリー・クイーン『ダブル・ダブル』：ライツヴィルを襲う連続殺人の謎

1950年発表のエラリイ・クイーンの長編推理小説『ダブル・ダブル』は、数々の名作を生み出したライツヴィルシリーズの一作です。前作『十日間の不思議』でライツヴィルとの関わりを断ち切ったはずのエラリー・クイーンのもとに、匿名の手紙が届くことから物語は始まります。

その手紙には、ライツヴィルで最近起こった3つの出来事に関する新聞記事の切り抜きが同封されていました。大工場の経営者の急死、共同経営者の自殺、そして、エラリーの古くからの知り合いである「町の乞食」と呼ばれていたトム・アンダースンの失踪です。

さらに、トムの娘リーマがエラリーを訪ねてきます。彼女は父親の死を確信しており、エラリーに調査を依頼。既に他の2つの事件にも疑問を抱いていたエラリーは、リーマと共にライツヴィルへと向かうのです。

ライツヴィルで、エラリーはリーマを助手として扱い、「チーフ」と呼ばれることを許します。捜査の過程で、大工場の経営権を相続し、トムとも関わりのあったドッド博士に疑いの目を向けます。犯行の証拠を探すため、リーマを博士宅に家政婦として住まわせるも、なかなか有力な証拠は見つかりません。そんな中、リーマはドッド博士の助手ケンと恋に落ち、調査から身を引いてしまうのです。

ある日、ドッド博士宅に「町の泥棒」と呼ばれる男が侵入し、正当防衛を理由に殺害されます。この事件で、エラリーはマザー・グースの歌詞「金持ち、貧乏人、乞食、泥棒、医者、弁護士、商人、かしら（チーフ）」という順番に事件が起こっていることに気づきます。

次の犠牲者は医者であるドッド博士だと考えたエラリーは警告を試みますが、博士は自動車事故に見せかけて殺されてしまいます。そして、マザー・グースの歌詞通り、悲劇は続きます。ドッド博士の顧問弁護士がビルの窓から転落死、火災により仕立て屋兄弟の一人が死亡、もう一人が重傷を負うのです。

最後に、「チーフ」であるエラリー自身も銃で撃たれます。しかし、防弾チョッキを着ていたため一命を取りとめます。そして、ついにエラリーは事件の真相を解き明かし、犯人を逮捕へと導くのです。

主な登場人物

リューク・マッケイビー: ペンキ染料工場の共同株主。一文無しの老人と思われていたが、実は大金持ちだった。
ジョン・スペンサー・ハート: ペンキ染料工場の共同経営者。会社の金を使い込み破産寸前だった。
セバスチャン・ドッド博士: ライツヴィル病院の院長。マッケイビーの主治医で遺産相続人。「ライツヴィルの聖者」と呼ばれ尊敬されていた。
ケネス（ケン）・ウィンシップ医師: ドッド博士の共同経営者。
ヘンリー（ハリー）・トイフェル: マッケイビーの世話係。
トマス・アンダースン: 「ライツヴィルの乞食」。行方不明になり、殺害されたと疑われている。
リーマ・アンダースン: トムの娘。エラリーに父親の失踪調査を依頼する。
ニコール（ニック）・ジャガード: トムの飲み友達。「ライツヴィルの泥棒」。
オティス・ホルダーフィールド: ドッド博士の顧問弁護士。
デイヴィッド・ワルドー、ジョナサン・ワルドー: 双生児の仕立て屋。
マルヴィナ・プレンティス: レコード新聞「レコード誌」の女社長。
フランシス・オバノン: プレンティスの部下。
デイキン: ライツヴィル警察署長。
ジープ・ジョーキング: 警官。
チャランスキイ: 地方検事。
エラリイ・クイーン: ライツヴィルを四度訪れた名探偵。主人公で推理作家。

提示される謎

見立て殺人（富めるもの、貧しきもの、乞うもの、盗むもの）
レッド・ヘリング（さり気なく置かれた手がかり）

作品の評価

エラリー・クイーン・ファンクラブ会員40名による採点では、20位にランクインしている。

日本語訳書

複数の翻訳版が存在する。

備考

タイトルの「ダブル」は、作中でエラリーがリーマに語った「物事には常に表と裏がある」という考え、それに伴う「二面性」を表している。作者は、マザー・グースの歌詞順に殺人が起きるというプロットがアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』と類似していたため、本作の執筆を中断していたという経緯がある。また、本作には前作『十日間の不思議』のわずかなネタバレが含まれている。

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