ダリエン計画

ダリエン計画：スコットランド帝国の夢、その崩壊

17世紀末、スコットランド王国は、壮大な野望を抱いてパナマ地峡への植民計画を立案しました。その名も「ダリエン計画」。新天地に「ニューカレドニア」を建設し、大西洋と太平洋を結ぶ交易路を切り開くことで、スコットランドを商業大国へと押し上げようとしたのです。

しかし、この夢は無残な失敗に終わります。二度にわたる入植の試みは、熱帯病の蔓延、食糧不足、スペイン帝国の軍事的圧力によって頓挫し、入植者の8割以上が命を落としました。ダリエン計画は、スコットランドの財政を揺るがし、後の合同法成立への道を開くことになったのです。

苦難の時代：計画の背景

17世紀後半のスコットランドは、度重なる飢饉と寒波に見舞われ、人口の10〜15％を失うという深刻な状況にありました。隣国イングランドとの経済格差は拡大し、スコットランドの産業は衰退の一途をたどっていました。こうした状況下で、スコットランドの人々は、イングランドのような商業大国、植民地大国になることを強く望んだのです。

スコットランド議会は、スコットランド銀行の設立や教育制度の改革など、様々な対策を講じました。そして、1695年には、スコットランド会社が設立され、ダリエン計画が始動します。

計画の障壁：イングランドの妨害

スコットランド会社は、アムステルダム、ハンブルク、ロンドンで資金調達を試みましたが、イングランドの商業的利害と対立し、妨害を受けます。イングランドは、当時有力だった重商主義の考え方から、スコットランドの植民地計画を自国の脅威と見なしたのです。また、東インド会社も、スコットランドの海外進出を阻止しようと圧力をかけました。

しかし、スコットランドの人々は、この計画に熱狂的に支持し、短期間で巨額の資金を調達することに成功します。スコットランドの商人ウィリアム・パターソンは、パナマ地峡の植民地を大西洋と太平洋の間の玄関口として利用するという構想を長年抱いており、彼のアイデアが採用されたことで、ダリエン計画は具体化されていったのです。

悲劇の幕開け：二度の遠征

1698年7月、5隻の船団がスコットランドを出発し、ダリエンへと向かいました。入植者たちは、新天地を「カレドニア」と名付け、砦を築き、集落「ニューエディンバラ」の建設を開始しました。しかし、その生活は困難の連続でした。農業はうまくいかず、先住民との交易も不調に終わります。マラリアや発熱などの熱帯病が蔓延し、多くの入植者が命を落としました。

イングランドは、スペインとの関係を考慮し、スコットランドの植民地への補給を拒否しました。絶望的な状況の中、入植者たちは植民地を放棄し、帰国を余儀なくされます。

1699年、再び1000人以上の入植者を乗せた船団がダリエンへと向かいました。しかし、そこで目にしたのは、荒廃した植民地と無数の墓標でした。入植者たちは、砦の再建を試みましたが、士気は低く、スペイン軍の攻撃に備えることはできませんでした。1700年3月、スペイン軍に包囲され、スコットランド人は降伏。ダリエン植民地は完全に放棄されたのです。

計画の失敗：スコットランドへの影響

ダリエン計画の失敗は、スコットランドに深刻な経済的打撃を与え、社会全体に大きな不満を引き起こしました。イングランドの責任を問う声も上がりましたが、スコットランドは自力でダリエンを再建することはできませんでした。この事件は、スコットランドがイングランドとの合同を模索する一因となり、1707年の合同法成立へと繋がっていきます。

その後

ダリエン計画への怒りから、スコットランドはイングランドの商船を襲撃。無関係の船員を処刑してしまうという事件も起きました。

ダリエン計画は、スコットランドの帝国主義の夢を打ち砕いた悲劇として、歴史に刻まれています。しかし、この失敗から得られた教訓は、スコットランドのその後の発展に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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