ダル (パプアニューギニア)

ダル (Daru)

地理と行政

ダルは、南太平洋に位置する島嶼国家、パプアニューギニアのパプア地方に属する主要都市の一つです。具体的には、同国の西部州の州都としての機能を担っており、行政の中心地となっています。地理的には、広大なパプア湾の西側に浮かぶダル島という小さな島に所在しています。この島は、パプアニューギニアを代表する河川であり、その広大なデルタ地帯で知られるフライ川の河口域に比較的近い場所に位置しています。周囲を海に囲まれた立地条件から、古くから海上交通や漁業にとって重要な拠点となってきました。

人口と社会

ダルの人口規模は、パプアニューギニア国内において比較的重要な位置を占めています。最新のデータである2011年の国勢調査によれば、ダルの人口は1万5142人を記録しました。これは、パプアニューギニア国内の都市の中で第8位にランクインする人口規模であり、沿岸部に位置する都市としては、首都ポートモレスビーに次ぐ二番目の規模を誇ります。過去の人口推移を振り返ると、ダルが着実に人口を増やしてきた様子がうかがえます。1980年の人口は7127人でしたが、その後1990年には8501人、2000年には1万2935人へと増加し、2011年には現在の規模に達しました。この持続的な人口増加は、州都としての機能集積や経済活動の活発化を示唆していると考えられます。また、ダル島を含むこの地域では、パプアニューギニアの多様な言語の一つであるキワイ語が、住民の間で広く使用されています。

経済と国際関係

ダルの経済は、地理的な特性を活かした漁業および水産関連産業が中心となっています。しかし近年、ダルは単なる地方都市としてだけでなく、国際的な地政学的な文脈でも注目を集めるようになりました。その最大の要因は、大規模な開発計画です。

2020年11月、パプアニューギニア政府は、中華人民共和国に拠点を置く企業「福建中鴻漁業」との間で、ダル島における新たな漁港施設を整備することに関する覚書を締結しました。この計画には、総額で2億オーストラリアドル（当時の為替レートで約150億円以上）という巨額の投資が見込まれており、実現すればダル島のインフラが大きく強化されると期待されています。パプアニューギニア側としては、漁業資源の活用促進や地域経済の活性化を図る狙いがあると考えられます。

しかし、この計画に対しては、地理的に近接するオーストラリア連邦政府および関係機関から強い懸念が表明されています。ダル島は、オーストラリア大陸の最北端部とはトレス海峡を挟んでわずか約200キロメートルの距離に位置しており、戦略的に非常に重要な海域に面しています。オーストラリア側が懸念しているのは、この漁港が単なる民間による商業活動の拠点にとどまらず、将来的には漁業活動を隠れ蓑にした中国人民解放軍の海洋民兵の活動拠点として利用される可能性や、中国漁船による周辺水域、特にトレス海峡における貴重な水産資源の乱獲が加速するリスクです。これらの懸念は、地域の安全保障や海洋資源の持続可能な管理といった広範な問題に関連しており、この漁港建設計画は、パプアニューギニア、オーストラリア、そして中国という三者間の関係、さらにはインド太平洋地域全体の安定性に影響を及ぼす潜在的な要因として、今後の動向が注視されています。ダルは、その小さな島の面積に比して、国際政治および経済の文脈で重要な意味を持ち始めている地点と言えるでしょう。

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